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「そ……それで?笹爺、この卵、御殿から……持って、来たのか?」
盗る、という言葉が言えず、多朗はそう尋ねた。
笹爺はやんわりと笑い、
「いや、儂が卵に見惚れていたら、助けた人魚に見つかってな。――儂がそれを欲しがっているのは、すぐに知れてしまった。そしたらその人魚が、『大事にしてくれるならば、一つだけ差し上げましょう。ただし、一日中卵を温め続けること。そして他の人間には見せぬこと。もしも、他の人間に見つかってしまったときには、必ずその人間にも卵を温めさせること』ということを約束させて、儂にこっそりくれたんじゃ」
一日中卵を温め続ける。
もしや、その約束を守るために、笹爺は仕事もせずにこの小屋に閉じこもっているのだろうか。
多朗は自分の心臓の音が耳に響いてうるさいと思いつつ、笹爺の言葉が気になった。
「じゃあ、俺が見てしまったのって……人魚にばれたら、大変なことにならないか? 取り返しに来る?」
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