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最終話 信じ合う心
──3年後
あれから一度も蒼から連絡は来なかったし私も連絡しなかった。蒼の声を聞けば会いたくなって、夢をあきらめてしまいそうだったからそれでよかった。それでも時折どうしても泣きたいときは、一人で海にいき蒼から貰った水色のハンカチを片手に、気がすむまで泣いた。
(蒼……元気にしてるかな……)
蒼との恋愛ごっこの七日間は、私自身も私の心の一部分も大きく変えてくれた。弱くて自信がなくて、すぐに俯きそうになる心は蒼の言葉と笑顔が、あの日からいつも背中を押して支えてくれた。
あのかけがえのない愛おしい七日間が今でも私が小説を書く原動力となっている。
「あ……ここだ……」
地元の本屋の片隅に小さな青い花が表紙の本が5冊だけ並んでいる。青い花の名前は蒼から最後にプレゼントしてもらったブルースターだ。
──ブルースターの花言葉は『信じ合う心』
あの日最後に蒼と見た、水平線の向こう側を目指して真っ直ぐに書きつづけた私の言葉の束は、小さなコンテストだが大賞に選ばれ、この度めでたく書籍発刊となった。
強面であまり感情を出すのが苦手な父が満面の笑みで、誰よりも喜んでくれたのには思わず吹き出した。
私は自分の小説をそっと手に取ってみる。その時だった。ふいに店内のスピーカーから音楽が流れてくる。
すぐ近くで本を選んでいた女子高生達がすぐにスピーカーを指差した。
「あ、これブルースターの曲!」
(えっ……?)
その言葉に思わず呼吸が止まる。耳をすませば、ギターを基調としたバラードが流れてくる。
(この曲……それにブルースターって……)
「デビューシングルだって、確か曲のタイトルは……『蒼と月』!」
(蒼と月……)
聞こえてきた歌声は、聞き覚えのある少し高めの甘い声だった。忘れるはずない。手に持っていた本がぼやけて見えなくなっていく。私はポケットから水色のハンカチを取り出し目頭を拭った。
蒼の歌声と共にあの日の想いが重なっていく。私は蒼との初恋を抱きしめるように本を胸に当てた。私が書いたこの本の中には私の初恋の物語がぎっしりと詰まっている。本の帯には『これは私と君の7日間の恋愛ごっこと失恋の記録』と印字されている。
蒼との恋愛ごっこは私の人生を変えた7日間となった。恋すること、相手を愛おしく思うこと、そして淡い恋心を涙と共に手放すことを知った7日間。でも互いの想いと夢だけは消えることはない。ずっと心の中に刻まれて永遠に恋の鼓動と共にリピートされて心から離れない。
──いつもどんなときでも貴方を信じてる。
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