毛虫の降る家

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玄関前の階段を登りかけたところで、急におじいちゃんの足が止まった。どうしたのだろうかと視線を上げた瞬間、異変に気づいた。 おじいちゃんが履いているチノパンの、股部分がそこだけ色濃く変色していた。その染みはみるみる内に広がっていく。 あまりの衝撃に声が出せず、私は染みが広がっていく様子をただ見つめることしかできなかった。 前を行く姉は事態に気づかず、軽快に階段を登り切ると、玄関扉を勢いよく開いた。 迎えに出てきた母の笑顔は、おじいちゃんを認めた瞬間色を失った。おじいちゃんが失禁をしたのは、その時が初めてだった。 私が咄嗟に危惧したことは、叱られる、ということだった。してはいけないことをした。何もわかっていなかった私にも、そのことだけははっきりとわかった。 結果的に、私は誰からも叱られることはなかった。母があたふたとおじいちゃんを風呂場に誘導したりしている間、階段の上で呆然と立ち尽くしていた私の腕に、毛虫が降ってきたからだ。 ピリリと電流のような鋭い痛みが走ったかと思った次の瞬間には、真っ赤な斑点が腕中に広がっていた。そこでようやく、私は声をあげることができたのだ。
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