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おじいちゃんが我が家にやって来たのは、桜が散ったあとだった。
母方の祖父で、祖母を亡くしてからは一人暮らしをしていたが、認知症の症状が出て一人暮らしが難しくなってからは、母の姉である伯母の家で暮らしていた。
伯母の出産が近づき、しばらくの間私たちの家に住むことになったのだ。
古びたボストンバッグひとつを大事そうに抱えてやって来たおじいちゃんは、玄関へ続く階段を登りながら、すっかり緑の葉っぱだけになった桜の木を見上げた。
この間まで咲いてたのに残念だったねと、その様子に気づいた母が呟く。
「また、来年になったら綺麗な桜が見れるよ!」
おじいちゃんを励ますような気持ちで私は応えた。あるいは、それは自分自身を鼓舞する言葉でもあった。
春にはまた、あの幸福なお花見ができるのだ。花が散ったあとが、どんなに悲惨であっても。
その時まで知らなかったけれど、花が散ったあとの桜の木には、大量の毛虫が発生するのだった。
今になって考えてみれば、殺虫剤などを撒いて適切に管理する必要があったのだろうが、当時の我が家にその知識を持っている者はいなかった。
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