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毛虫に刺される危険があるので、庭で遊ぶことを禁じられた。けれど、庭に出なければ済む話ではない。
問題は階段だった。そこを通らないことには家から出られないし、帰れない。
階段にはおびただしい数の黒い糞が落ち、時には毛虫そのものが落ちていることもあった。
最悪だったのは、雨の日だ。
水分を含んだ毛虫の糞はブヨブヨと膨張し、不快な臭いを放った。避けて歩こうにも数が多くて避けきれない。憂鬱だった。
ものごとには、良い面もあればそうじゃない面もあるのだと、幼いながらに私は何かを悟ったような気になった。
その日は梅雨の晴れ間だった。
せっかくだから散歩にでも行ってきたらと母に促され、午後、私は姉とおじいちゃんと連れ立って外に出た。
おじいちゃんは、私の名前を間違えたり、薬を飲み忘れたり、食べたはずのご飯をもう一度食べようとすることがよくあったけれど、基本的に自分のことは自分でこなしたし、とても真面目で穏やかな人だった。
行きつけの駄菓子屋を覗いたあとぐるりと近所を一周し、私たちの家を含む住宅街に戻ってきたところで、姉が目配せをした。ほんの、いらずら心だった。
「おじいちゃん、私たちの家、どれかわかる?」
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