毛虫の降る家

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私と姉は、なぞなぞを出すような気持ちで、おじいちゃんに訊いてみた。 周辺には、同じような色、大きさの家がいくつも並んでいた。おじいちゃんは首を傾げ、自信なさげにいくつかの家を指差した。どれも違っていた。 「ほら、桜、桜の木がある家だよ?」 「玄関入るまでに、階段登るよね?」 私のいたずら心は、次第に祈るような気持ちに変わっていった。 どうして? なんで? おじいちゃんはもう、私たちよりずっと年上の大人なのに。どうしてこんな単純なことがわからないの?  「恵子、ごめんやけど、ちょっとわからんわあ」 私の顔を見て弱々しく呟くおじいちゃんに、悲しいような、苛立たしいような気持ちになった。簡単に諦めて欲しくなかった。それに、恵子は姉の名前だった。 「何回も言ってるけど、私は奈緒子だよ!!」 そんなやりとりを繰り返しているうちに、からりと青かった空には鈍色の雲が垂れ込め始めていた。 半袖から剥き出しの腕を撫でる風は、ひやりとした冷たさを伴っている。家を出てから、かなりの時間が経っていた。 「そろそろ、帰ろうか?」 まだ諦めきれずにいる私を促して姉は先頭に立ち、おじいちゃん、私の順で連なってとぼとぼと家に向かった。
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