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それから顔を合わせるたび、僕は性懲りも無く「シュークリーム」と呼んだ。
はじめは真っ赤になって怒っていた貴女も、いつの間にか吹き出して笑うようになり、すっかり馴染んだのは初夏の頃。
「ねぇ、君は洋菓子が好きなの?」
貴女の肩で揺れる髪が風に靡くと、ふわりと石鹸の香りが僕の鼻腔をくすぐる。
──僕には、この香りすらも甘く思えるのはエゴでしょうか?
「……違う、シュークリームが好きなんだ」
貴女に言いたかった一番遠い言葉に、一番伝えたかった想いを乗せて言ったそれは、僕の人生において一、二を争うほどの美文だったと、今ならそう思えるのです。
そして僕は、告白まがいの声が届いたのかどうかと不安になりながら、貴女の顔を見たくても見られない臆病さえも僕の美点だと自分を納得させて、その日も洋菓子屋へ向かった。
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