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プロローグ
大きなティースプーンの杖を持った少女はパティシエを思わせるドレスを着ていた。翻る短いスカートは芸術的なケーキのように豪華で美しい。身体のラインが分かるデザインだがいやらしさはなく、彫像のような完成度だった。物語のお姫様を思わせる姿は平凡な日常の中では異様だったが、その少女にはよく似合っていた。顔立ちに幼さは残るが紅茶色に透き通った瞳は意志の強さを感じさせる。たおやかな微笑みは気品すら感じる。
少女はとろりとしたミルクティのような長い髪を耳にかけると汚らしい女性客に声をかけた。女性客がこくんと小さく頷くと少女はティースプーンの杖を掲げた。
「オーダーケーキを作りましょう」
少女はティースプーンの杖を振り下ろした。すると女性客の身体に乗っていた生クリームがとろりと溶けていく。それは床に広がって、少女が杖でトンと突くと宙に飛びあがり集まっていく。少女が再び杖を振りかざすと、生クリームだったそれは杖から溢れる星屑と共に踊りながら固形になった。少女が踊るように杖を振り回す度にバタークリームの立体花が出来上がっていく。少女が踊り終わると、芸術品となったケーキが少女の手のひらの上で踊るようにくるくると回っていた。
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