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piece 1. 太陽と向日葵
八月十五日、日差しが熱気を煽る日中を過ぎてもほんのりと汗をかく。そんな中で慣れない浴衣を着た向日葵は渋谷ハチ公前でスマートフォンをいじっていた。モニターに表示されているのはチャットアプリだ。上部の氏名欄には『棗累』と表示されている。
『行きます。場所が分からないので十五時にハチ公前に迎えに来てくれませんか』
味気ない文字列を見て葵はくすりと笑った。
(固い口調。先輩も緊張してたりして)
顔を上げ周りを見ると、まばらだが浴衣姿の人々が歩いている。家族連れの子供ははしゃぎ女性の複数連れはお互いの浴衣を褒め合っている。しかし葵の目が気になるのは仲が良さそうな男女だった。二十歳になるかならないかという外見で、二人は楽しそうに笑いながらどの屋台を回るかを話し合っていた。寄り添うような距離感は恋人であると予想できる。
(私と累先輩もあんな風に見えるかな……)
葵が棗累と出会ったのは四か月ほど前に終わった大学入学式から数日経った頃だった。サークルの勧誘が始まったようで、歩けばあちこちで声を掛けられる。運動系はどこそこの大会で優勝しただの充実した指導だのといった真面目な活動内容をアピールをする者が多かった。それとは逆に自由さや交流の多さ、気楽さをアピールするサークルも多いようだった。
どちらかといえば気楽に過ごしたい葵は活動内容の書き込みが多いチラシは読みもせずに捨てていた。しかしその様子を見ていた仲良くなったばかりの友人が勢いよく抱き着いて来た。
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