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「二年の棗累先輩。今年の入部希望は五十人越え」
「五十!?」
歩美はにやにやと笑った。累は他の生徒にも声をかけていて、寄ってくる女子は後を絶たない。その誰もがチラシなど見ていなくて、愚かしいその姿に自分が重なり苦笑いを浮かべた。
「モブじゃん……」
「そ。でもほら、葵は名前ウケるから」
「確かに」
葵は大急ぎで入部届けに名前を書くと、その横に向日葵のイラストを描いた。歩美は声を上げて笑ったが、葵はにっこりと向日葵のような笑顔で累に書類を渡した。すると思惑通り、累は一瞬きょとんとしてからぱあっと眩しい笑顔を向けてくれた。
「すごい。園芸の申し子じゃん」
「じゃあ先輩は太陽ですね。向日葵を引き寄せた太陽!」
「あはは。いいね。あ、うちのサークルみんなで夏祭り行くんだよ。本領発揮できるじゃん」
「ええ? 何のですか」
「向日葵の」
これが葵が棗累と交わした初めての会話だった。その他大勢の女子より一歩リードできた名前に感謝したけれど、累はすぐに勧誘へ戻りモブになるであろう女子にチラシを渡し始めてしまった。葵自身に興味を持ってもらえたわけじゃないのはすぐに分かったが、それでも葵は累から目を離せなかった。太陽だけを目指して花開く向日葵の気持ちがよく分かった瞬間だった。
しかしそんな当時を思い出すと、葵の口からは深くため息が漏れた。
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