緊急事態

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

緊急事態

 病院に着いて、父を車椅子で緊急外来の場所まで運び込んだ後ーー。    問診票を書いている後、看護婦さんが慌てたように言った。  「◯◯さん!血圧が測れないよ!」  その言葉に、母と私は青ざめる。  急に辺りが慌ただしくなった。  他の患者に混じって、意識があるままストレッチャーに乗せられて色んな部屋を行ったり来たりする父。  そして、10分後。  緊急外来の先生に私と母が呼ばれた。    診察室に入る。  部屋の奥の方では父が10人近くの医師や看護師に取り込まれて何か色々機材を取り付けられていた。  緊急らしい機械音が聞こえてきて、私達の不安を煽る。  先生が診察室に入って来てレントゲンか何かの写真を見せた。  肋骨の下辺りに大きく広がる丸い何か。  「大動脈が破裂して大量に出血しているね。  少し固まりかけてもいるけど。  救急車で来るべきだったね……。」  その時、病名が『腹部大動脈瘤破裂』だと聞かされた。  緊急性が高く致死率も高い大きな病だった。  母の小さな悲鳴と共に、私の頭の中が真っ白になった。  父は緊急手術が出来るような更に大きな病院へ搬送される事になった。  絶望の表情をした私達に先生はこう言って下さった。  「大丈夫!きっと助けます!  私もあっちの病院まで行きますから。」  そのはっきりとした言葉が私達の心に火を灯してくれたのは言うまでもない。二人がその場で崩れなかったのはその言葉があったからだったと思う。  本当に頼もしく、希望が形になったような言葉だった。  ストレッチャーに乗った父の前で説明を受ける私と母。  「〇〇さん、痛み止め入れましたよ!」などの緊迫した声が飛び交う。  そんな時も父は落ち着いて受け答えをしていた。何か悟ったような表情ともとれた。  救急車には一人しか同伴出来ないと言われ、父と同棲していて病歴を熟知している母が一緒に乗る事になった。    私は兄や親戚への連絡を任された。  目まぐるしく起こる事態の中、私は言われた通りに連絡をした。  落ち着くように気を張った。それでも声が震える。  始めに兄へ連絡した。 電話の兄は落ち着いていた。  穏やかな声で「職場から搬送先の病院へ向かうよ」と言ってくれた。    兄も初めての事で不安なはずだった。  私は「ごめんね。」としか言えなかった。    数十分後、事情を聞いて親戚が最初の病院に駆け付ける。  私は一緒に自動車に乗って搬送先の病院へ向かった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!