1日だけの、最も長い戦いの末

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1日だけの、最も長い戦いの末

 夜11時。    私は母にお守りを握らせ、自分は手を合わせて黙って念じた。  遠い親戚への電話対応を終えた兄も、やれる事がなくなって、険しい顔をしながら同じように手を合わせた。  そしてまだ続きそうだし、仮眠取ろうかとやっていたその時、ノックの音が聞こえた。  皆、一斉に身構える。  今回の大手術の担当医が「はい、終わりましたー」と、やってきた。    手術は成功だった。  3人で小さく歓声を上げる。  その後、どうやったのかの説明を受ける。  諸事情で詳しい方法や手順は省くが、患部が色んな臓器の血管の入り口が集まる場所にあり、熟練の先生でなければ細かい判断が難しい手術だったようだ。  ある処置が時間との戦いだったり、輸血も大量にしたと言う話からして、常人には出来ないギリギリの攻防が繰り広げられていたに違いない。    かくして、父は適切な判断と処置で何とか一命を取り止めたのである。  3人で心から感謝の言葉を述べた。  嬉し涙など本当に久しぶりであった。  この時ほど、「ありがとうございます」以上に感謝を示せる言葉があればいいと思った事は無い。  先生が神様のように思えた。  そのせいか、自然と後光のようなものも見えるような気がした。  こうして内容の濃い、長い1日が終了したのである。
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