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あの思い出のためだったんだね。私が桜にどこか屈託を持っていたのは。
はらはらと散る花びら。
桜色のお弁当。
もう、微かな違和感以外忘れていた。浩平に誘われたときも、うれしかった。
それがこんな思い出を呼び起こすなんて。
「ごめん、嫌いなもの、入れちゃって」
申し訳なさそうな浩平がかわいそうだ。
私は涙を気取られないように、思いっきり笑う。
そして肉巻きをかじってみる。
「うわ、美味しい。これからは浩平にお料理頼もうかな」
ようやく浩平も照れくさそうに笑った。
この記憶はまた奥底にしまい込んで、これからの浩平との新しい生活のことを考えよう。
とても真っすぐに育ったのが分かる、浩平の優しさに包まれて生きていけるんだ。
涙はもうとっくに乾いていた。
(了)
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