さくらでんぶ

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 臭いや味って、人間の感覚の中でも原初的なものらしい。  でも、視覚にあたる色や質感ももちろんそう。  浩平が弁当のフタを開けると、そこにはピンクがみっちりと敷きつめられていた。  さくらでんぶ。  私のいちばん嫌いな食べ物。  お料理男子の浩平に、花見弁当をお願いしたら、こんなことになった。  浩平は眉を寄せた私を不思議そうに見ている。手に、お箸を渡された。  空色が抜けるよう。桜の花によく合う。  それでも私の意識は、一瞬遠い過去に持ち去られてしまった。  思い出したくもない記憶が、脳の記憶庫の奥からひょいと姿を現す。  浩平の、ばか。  
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