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1.ローランドの困惑
◇◇◇
「………は?
今夜は寝室を共にしない………だと?
あの……アデリナが?」
その夜。
様々な政務を終えたローランドは、報告をしに訪れた侍女の言葉に思わず自分の耳を疑った。
それには側で控えていたランドルフも同様に眉を顰めた。
「はい。王妃陛下は今夜から、陛下とは別々の寝所に眠ると………」
「……そうか。分かった。
もう行っていい。」
気まずそうに報告しに来た侍女にローランドは下がるように指示する。
閉まった扉の方を見つめ、無意識に握った拳に力を込める。
「何だって……寝室を別に?
あの女はいつだって俺と同じベッドに寝ないと気が済まないと、以前はひどい癇癪まで起こしたくせに……」
腑に落ちない。ローランドは両眉を顰め、普段のアデリナの様子を思い浮かべた。
だが簡単に答えは出ない。
あれだけ自分を私物扱いし、我儘を通してきたアデリナが一体何を考えてるのかまるで分からない。
今日に限っていつもとは全く違うあの女。
しかも離婚まで仄めかしたのだ。
それがやけに気味が悪いとしか。
「……陛下。お気をつけ下さい。
王妃陛下はまた何かよからぬ事を企んでいるのでしょうから。」
「お前もそう思うか。ランドルフ。
……分かっている。
あの女がする事はいつも大抵ろくでもない事だから。」
疲れたと顳顬を抑え目を瞑り、ローランドは椅子に深く腰掛けた。
あの女はいつだって母国の加護を盾にこれまでも様々な我儘をし、傍若無人に振る舞ってきたのだ。
暴言を吐いたり、自分の侍女を虐めたりというのは日常茶飯事。
金遣いが荒く、欲しい宝石があれば買って欲しいと駄々を捏ねる。
時には店丸ごと買わせたり。
全く価値のない鉱山まで買わせたり。
気まぐれに奴隷を買ったり。
勝手に見知らぬ画家を連れて来て肖像画を描かせ、大金を支払ったり。
発言や言動があまりに稚拙。
世間知らずで常識知らず。傲慢で無能な王妃。
その醜聞はすぐに国中に広がってしまった。
どんなに咎めても聞く耳など持ってない。
王としての私の言葉など、一切の無視する有様だ。
そして最悪な事にアデリナは私がそれに逆らえないのを知っている。
都合の良いように振り回わされても、人形のように言う事を聞く情けない王。
自分のプライドや見栄のために私を財布扱いし、利用する性悪女。
そんな女が私と離婚すると言い出すなどあり得ない事なのだ。
「……一先ず、今夜はゆっくりとお休み下さいませ。」
「ああ……」
そう言って頭を下げ、ランドルフは下がっていった。
しかしローランドは結果として眠れない夜を過ごした。
いや……一年振りの一人の夜なのだ。
性悪妻が隣にいないのは良い事のはずなのに。
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