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広い寝室は静寂に包まれていた。
手元の照明がわずかに周囲を照らす。
この場所からは随分と離れた場所にある窓からの月明かり。
天蓋付きのベッドには皺一つなく整えられたシーツにきっちりと整えられたブルーの布団。
その上に仰向けで寝転がる。
「………静かだ。」
結婚したあの夜から今までずっとアデリナと一緒に寝ていたベッド。
———初夜であの女はここで何て言った?
「私、眠いの。
だから今夜はあなたとはしません。」
結婚式の間もその直前まで強気で偉そうな態度を取り、夜が訪れ、この主寝室で今度はいざ房事となるとアデリナは背中を向けてそう言った。
「は………?しかし今夜は………」
「う、うるさいわね!今夜はしないと言ってるでしょう!
い、いいから大人しく寝て下さらない!?」
何という物言いだろうか。
いくら政略結婚でお互いに愛がないとは言え、まさか王である私との初夜を拒むなんて。
しかも夫に背を向け、一度もこちらを振り返ろうとはしない。
話に聞いていた通りだ。
我儘で傲慢で性格が悪いという。
仰向けになり、片腕で額を覆いながら淡い照明が吊り下げられた高い天蓋裏を見上げた。
……こんな女を愛せるんだろうか。
いや、例えどれだけ性格が悪いとしても私は愛さなくてはいけない。
翌日。初夜を無事に迎えたという房事記録官に虚偽報告をしてローランドは寝室を後にした。
あれから一度もアデリナはこちらを見ようともしなかった。
互いに愛のなかった冷え切った両親の姿を思い出す。
あんな風にはなりたくない………。
◇
それから何夜目かで漸くアデリナとの初夜を終わらせる。
その間アデリナは珍しく何の文句も言わず。
呼吸を整え、露出した肌を隠すように布団をかけてやる。
「その……痛くなかったか?大丈夫か?
もし違和感や体調不良などがあれば医師に」
「……だ、大丈夫です!
こんな事くらいで、私は体調を崩すほど軟弱ではありませんから!」
怒ったように顔を真っ赤にし、アデリナはまた背中を向ける。
大事な王族の房事をこんな事とは……
その日はさすがの私も頭にきて、彼女に背中を向けて眠った。
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