1.ローランドの困惑

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 ◇◇  王城に仕える侍従長や侍女、下働きの従者達は皆アデリナを怖がっていた。  相変わらず我儘だし、気に入らなければ侍女を叱りつける。  料理が不味いと言ったり、部屋のカーテンが気に入らないと言ったり。  彼女が来てから皆目に見えて辟易していた。    それにアデリナは一体何処をほっつき歩いているのか、毎日のように馬車に乗ってどこかに出掛けて行く。  昼間から豪遊か。  いいご身分だな。  政務室の高い窓からいつもその風景を見下ろしていた。  そう言えばアデリナが気まぐれで買ったあの少年の奴隷はどうしたのだろうか。  ◇◇◇  「陛下……!少しは王妃陛下に、ご自分の仕事をやるように進言なさって下さい!」  その生活態度の悪さにランドルフも私に泣きつく様になってきた。  彼女が王妃の簡単な自分の仕事をやろうとしないから。  王妃との外交目的で訪れる国賓を持て成す準備、つまりその際に出す茶葉やスイーツに何を選ぶかという、指示。  また自分の住んでる王妃宮の管理、侍女達の管理、采配など。  本当に簡単な仕事を。    「放っておけ。王妃の仕事は優秀な侍女長にやらせておけばいい。」  「しかし……」  ランドルフはまだ何かいい足りなそうな顔をしていたが、私の意思を汲み取ってくれたらしい。  我が国クブルクはアデリナの母国によって加護されている。  今それを失うわけにはいかない。  だから理解したとばかりにランドルフもまた、大人しく引き下がる。  「この結婚…やはり失敗だったのでは?」  「……そうだな。  ……そうかもしれない。」  諦めにも似た溜息と言葉を同時に漏らした。  それに、もう初夜は終えたのだ。  何も一緒に寝るのがそんなに嫌なら今夜から寝室を別にすればいい。    そう言ったらアデリナは………  「ふざけないで下さい!  夫婦が別々に寝るだなんて!  そんな事っ……そんな事許されません!  …‥ち、ちゃんと一緒に寝て下さい!」  いつもの倍の剣幕で怒り、目に涙を浮かべ、ベッドにあった枕まで投げてきた。  終いには布団までバンバンと床に叩きつける始末。  おかげで羽毛が部屋にフワフワと舞う羽目に。  「分かった……、一緒に寝る!  寝るから今すぐ暴れるのをやめろ!」  「……本当ですか?」  初めて怒鳴ったせいか彼女はピタッと暴れるのをやめ、漸く羽が床やベッドの上に落ち着いた。  見ればアデリナの顔は真っ赤に染まっていた。  全く。あんな風に暴れるからだ………。    「はあ…………」  何て性格が悪いんだ。まさかこんな風に暴れて我儘を言うなんて。  もう無理かもしれない。  これまで私は随分我慢して譲歩してきた。  やはり……この女を愛するなどできない。  政略結婚で愛のある夫婦など所詮、幻想に過ぎないのだ。
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