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復活に向けて
ミサは事故から10日後にようやく目を覚ました。
ミサ自身はほんの少し眠っただけのつもりだった。あの、自分を上から見ていた事故の日の事はよく覚えている。だから自分のケガがどんなにひどいのかも良くわかっていた。
ミサは母には何も聞かなかった。父も海外から帰ってきて心配そうにミサを見下ろしていた。ミサは父にも何も聞くことはなかった。
だって、左足はまだ見つかっていないし、今更見つかっても繋ぐことは不可能だ。だから聞いても無駄だし、まだ内臓の損傷がひどかった為、話せる状態でもなかった。
右腕は体とつながってはいるが、もしかしたら壊死を起こしてダメになるかもしれないし、右の足首についても同じだ。
ミサの心の中は真暗だった。
見つからなかった左足については警察の方でしっかりと捜査が行われ、実は見つかっていた。
左の腿から下はトラックに巻き込まれたときに引きちぎられ、その原型を亡くすほど損壊してトラックの下側にミンチのようになってへばりついていたのだった。
ミサはその事実は知らされていなかったが、今はとにかく一生懸命息をして、内臓の損傷を良くすることに意識を集中していた。
それから3か月。右腕と右足首は壊死の心配も無くなり、少しずつだが、感覚も戻ってきていた。
そして、半年が過ぎる頃、ミサのリハビリが始まった。
それはそれは大変なリハビリだった。一度引きちぎられてしまった部分をつなぎ合わせたのだ。まだ通っていない神経もあるのだろう。痛みを伴う辛い辛い作業だった。特に足に関しては、左足を失くし、手術を受けた右の足首は関節部分が上手く動かなくてただ体についているだけで、ミサの身体を支えること等到底できないと思われた。
リハビリが始まってからしばらくしてミサは退院した。リハビリには家から通えるリハビリ施設を紹介してもらった。
学校へは一年遅れて通うことが決まった。
ミサは毎日の苦痛を伴うリハビリと、同級生において行かれてしまった悲しみから荒れるようになった。特にずっと一緒にいる母親にはとてもつらく当たってしまい、そんな自分に益々嫌気がさした。
しかし、ミサはあの事故の日の不思議な出来事も忘れてはいなかった。
『前を向いて生きようとしてね。』
そういった未来のミサと名乗った女の子の事だ。
母に当たってもリハビリの効果が上がるわけでもない。段々そんな風に思えてきて、右足首がなんとかしっかりと足の裏で地面をとらえられるようになったころ、理学療法士がミサに提案をしてきた。
「どうだろう。左足に義足をつけて見ないか?」
「右の足首については、ミサちゃんは本当に頑張った。足の裏で地面をとらえられなければ一生車いすかとも思っていたからね。」
「きちんと足の裏で支えられれば左足さえあれば最終的には杖をついてでも自力で歩けるようになると思うんだ。」
そう提案されたとき、ミサはあの、未来のミサが言っていたことがはっきりと分かった。
前を向いて頑張った結果、ミサは最後の部分を手に入れられるかもしれないのだ。
「義足、つけたいです。」
ミサははっきりと理学療法士に言った。義足をつくる人とも顔合わせをした。
きっと、未来のミサはこのことを知っていたのだ。そして、そのためにはミサが頑張らないと義足をつけると言う案もかなわなかったことも。
さぁ、明日にはミサの最後の部分が届くことになっている。
義足をつけてのリハビリは更に大変な事だろう。でも、ミサはもう一度自分で歩きたかった。たとえ杖を突いてでも。
ミサの眼には新しい光が宿っていた。そして、今のミサの姿はあの事故の日にミサの後ろに浮かんでいた、少し成長したミサにそっくりになっていた。
【了】
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