1章女王編・上

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   下される処分・3 「――待って下さい!」  竜牙が押さえる腕を師隼は振りほどこうと藻掻く。  その間に日和の少女が師隼と命の間に割って入った。  その姿に命はぽそりと呟き、目を見開く。 「か、金詰、日和……」  師隼はゆっくりと命から日和へ視線を移す。  まるで蓋をするように無理矢理怒りの表情を消し、穏やかな表情を見せた。 「日和、そこを……退()きなさい」 「い、嫌です!師隼、この方に……櫨倉さんに何をする気ですか……!?」 「退け、金詰日和!!!」 「ぜ、絶対、嫌です……っ!!」  優し気に声をかける師隼だが、その表情はあまりにも歪んだ笑顔だった。  日和が否が応でも首を横に振り、笑顔のまま日和を見る目が、厳しくなっていく。 「かっ、金詰! なんで僕を庇う!」  それでも拒否をする日和に命は声を荒げた。  その姿に師隼はがくりと首を落とし、鼻で笑う。 「……ふっ、そうか。監視し、守護する側が逆に監視対象に守護されるとは愚の骨頂だな」 「しじゅ……――」 「――櫨倉命、貴様に命令を(くだ)す。今すぐその面を壊し、跪け! 今後一切貴様に術士の加護は与えん。当然、今までに教えられた技も置いていけ。外で野垂れ死なぬことだけは、祈っといてやろう! 以上だ」  師隼は(わら)っていた。 「師隼、それは……」 「日和、君は優しすぎる。己の身を滅ぼす優しさはもう捨てろ。本来なら私刑であるが、極刑だ……今すぐにでも私が直々に手を下すべきだと思っている。だが、君は免れるよう頼みたいのだろう? だったら、私は直々に手を下さない。それが妥協点だ」  師隼の声は至って真面目だ。  だからこそ、日和の表情は真っ青になった。 「そん、な……」  倒れたままの命は強打し、痛みに耐えながら日和に視線を移す。 「いや、いい……いいんだ、金詰日和……。僕が悪かった。こんな僕を庇うなど、君がどうかしている……」 「でも!」 「しつこいぞ。私は今、師隼様からの罰を言い渡された。だったら、それを受けるまでだ……。金詰日和、すまなかった……」  命は諦めたように笑っている。  自分が間違っていることを理解してしまった。  こんな人間を庇う存在こそ、守られるべきなのだ。  優しさの塊、自己犠牲の強さ、この女こそ術士に相応しい。  自分に心配して駆け寄ってくる日和に、命は上体を起こし右手で少女の両目を塞いだ。 「櫨倉……さん――」  消えそうな、彼女の最後の自分を呼ぶ声が空しく響き、日和は床に倒れ伏す。 「そうだ、それでいい……。では貴様に与えた技、返して貰う」  その姿に師隼は優しく笑って先ほどの命と同じように手を伸ばし、命の頭を掴んだ。  意識が遠のいていく片隅で、何かが割れる音がする。  ――多分、狐の面だろう。 「日和、昼食に行くわよ」 「うん」  いつもの波音のかけ声で日和は席を立つ。  鳶色の髪の少女の横を通り過ぎ、二人は屋上へと向かう。  そんな二人の姿に少女は振り向くことなく、自身の弁当を取り出す。  術士や日和が、鳶色の髪の少女が、互いに視線を向け合うことは無い。  ましてや互いを視認することすら、もう、ない。
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