1章女王編・上

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8-3 報告・1  話は少し戻る。 「やっぱり頼るのは、苦手です……」  日和が開口一番に空気を逆転させたのは、日和が華月に荷物を預けてからたった20分程の事だった。  自分が何の気もなく荷物を渡し、もしかしたら日和は周囲に見られると困る物があるか……とも思い反省しかけたが、答えは単純なもので『お願いするのは気が退ける』のなんとも日和らしい一言。  それと飛んで出てきた華月の圧力に負けたことを気にしているらしい。  「気にするな」とは言っているが、この様子ではまだまだ打ち解けるには時間がかかるだろう。 「……日和、半分は気にしなくていい。あの家が異様に世話好きなだけだ」 「竜牙……もう半分は、なんですか?」 「…………慣れろ」 「無理ですっ」  日和の表情は食い気味で、思いっきり拒否の顔だった。  これはしばらくこのままだな、と竜牙の口からはいつものため息が出る。 「――あれ、日和と竜牙じゃない」  そこへ、二人のよく知る声が聞こえた。  振り返れば紙袋を持って歩く波音が居る。 「波音! こんにちは」 「ええ、こんにちは。珍しいわね、こんな所で。どうしたの?」 「今から師隼の所へ行くところだ。報告がある」 「ふーん、そうなの。じゃあ行く先一緒ね」  日和は波音に懐いているようで、纏っていた空気が変わった。  一方波音にしても悪い気ではないらしく、いつも通りだ。  どうやら知らぬ間にある程度、仲は良くなったらしい。 「波音……まだ師隼の所へ足繁く通っているのか?」 「う、うっさいわね、ちょっと教えてもらうだけよっ」  波音は頬を膨らませ、思いきりこちらを睨みつける。  少し恥ずかしそうな様子を見ると、言うべきではなかったかもしれない。  しかし日和はそんな波音に食い付いた。 「波音は神宮寺さんから何か教わっているの?」 「ん、まあね」  こくりと頷き、そんな返事をする波音の手には紙袋がぶら下がっている。  袋の口から棒の先に球が付いているので、何が目的であるかは一目瞭然だ。 「次は一体何を作っているんだ?」 「――えっ!? あ、いや、大したものじゃないわよ? 袋、袋作ってるの!」 「袋……? 波音、これもしかして編み物?」 「~~~~っ!!!」  上ずった声を上げていた波音は真っ赤になって、片手で顔を覆っている。  日和は面白い物を見つけた子犬のように興味深々になっていた。 「波音、編み物が出来るんだ……わぁっ! 素敵です!」 「あ……日和、それ以上は……」  満面の笑みを見せた日和に、波音が固まった。  日和を止めようと声をかけるが、既に遅かったらしい。 「ごふっ……」  片手で顔を覆ったまま、波音の体は何かが抜けるように倒れていく。  そこへぶわりと現れた炎がその体を支えた。 「ほらほら波音、言っただろ?そろそろ慣れないと駄目だって」  波音の横で支えたのは焔だ。  同じく行こうとしたが、焔の動きは(いや)に速かった。 「焔、すみません……。私、何かしましたか……?」 「いや、大丈夫ー。いつもの事だから。よーいしょ」  心配をする日和に焔は満面の笑みで答え、波音を背負う。 「いつもの事……?」 「ほら、波音こんな性格でしょー? 褒め慣れないんだよ。基本努力しても褒められないと思ってるから不意打ちで褒められると、たまに卒倒しちゃうんだよ。可愛いでしょ?」 「うーーー! うっさい! 馬鹿っ! あーーーーもうっ」  にこにこと笑う焔の背中で、我に返った波音が暴言を吐きながら焔の胸をぽかぽかと叩く。  恥ずかしさを紛らわせているのは分かるが、ふと違う意味で似た人間が思い浮かんだ。 「日和の頼るのが慣れないのと一緒だな?」 「う゛っ、うぅぅ……」  照れて暴力を振るう様子を見た竜牙は釘を刺すように日和に向けて言い放つ。  すると深々と刺さったようで、日和も何も言わなくなった。
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