1章女王編・上

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8-4 金詰日和は迷子・1 「良い報告を聞けてよかった。あまり無理をしないように。いいね?」 「はい、ありがとうございました。これからもよろしくお願いします、師隼」 「ああ。では気をつけて」  日和は丁寧に頭を下げて師隼の家を出る。 「竜牙が居るから大丈夫でしょうけど、気を付けて帰るのよ」 「はい、ありがとうございます。波音」  隣に居た波音にも手を振り、先を歩く竜牙の背を追いかけた。 「……日和は、私達には慣れてきたな」 「そう、ですね。それにまだ2回目ですが、師隼は思ったより話しやすい人でした」  いつもと変わらない歩調、淡々とした口調で竜牙は追いついた日和に話しかける。 『そうだ、私の事は皆と同じように師隼、と下で呼ぶといい。私も下で呼ばせてもらうが、いいかな?』  これは家を出る前、日和を引きとめた師隼から言われていた。  お墨付きを貰い、友達感覚で下の名前で呼び合う仲になった……気がする。 「あいつは悪くは無――……いや、心を許し過ぎてはいけない。とりあえず怒らせない様にだけしておけ」  竜牙は一瞬顔を(しか)めて答える。  そんな竜牙の様子はどこか苛立っているような、気に入らないような。  なんだか色々な物が混ぜ合わされた感情が見えて、とにかく簡単に知っている中では無いなと想像がつく。 「竜牙は、師隼に詳しいんですか?」 「まあ……腐れ縁だ」  式と術士の主との腐れ縁というのもよく分からないが、どう答えればいいか分からない。  日和はあえてスルーした。  ふと昨日の佐艮の話を思い出し、日和は竜牙に視線を向ける。 「術士の皆さんの家はそれぞれ事情があるのだと聞きましたが、師隼もなんですか?」 「ああ……まあ、そうだな。少し前まで兄が仕切っていた。だが他界したので師隼が継いでいる状態だな。ちなみに既に結婚相手も決まっている」 「お兄さんが……。結婚相手って、師隼はおいくつなんでしょうか……」 「確か25のはずだ。相手がまだ学生だから卒業待ちだと言っていた」  髪の毛の要素を抜いた見た目で20歳前後かと思っていたが、まさかの25だとは。  自分より10も年上である事に、少し驚愕した。 「学生なら……大学生ですか?」 「いや、高校だ。日和達が通っている高校の3年に在籍している。多分近々会うだろうな」  結婚相手、とても年齢が低い。  しかも校内の先輩という事実に衝撃を受けた。
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