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狐面・3
授業の終わり一番に、波音は教室を出ていく。
一瞬の目配せだったが、どうやら妖が出たらしい事は日和も理解した。
「あーれ、水鏡さん行っちゃったよ? いいの?」
真っ先に帰っていた波音の姿を不思議そうに見ていた弥生は波音の机を指差し、日和に問う。
どう答えるべきかを悩んだ日和は、少し前にいつか弥生と放課後遊ぼう、と約束したことを思い出した。
「今日は忙しいみたい。……弥生、久しぶりに一緒に帰る?」
「えっ、日和からのお誘い!? 嬉しいー! 帰る帰る♪」
珍しく日和からの誘いに喜び、弥生のテンションが上がる。
とても嬉しそうな姿ではあるが、しかし水を差すように背後から声がかかった。
「金詰さん、今から帰るの? 僕も一緒に、いい?」
声をかけてきたのは、今日目にした姿。
昼にも声をかけてきた鳶色の髪の少女だ。
「……あー。えっと、櫨倉さん、だっけ?」
睨むような弥生の視線が櫨倉を刺す。
一方の櫨倉はにこにこと笑顔だ。
似た光景を、昼に見た気がする。
「うん、櫨倉命。貴女は確か……奥山さん、だったかな?」
「残念奥村ですぅー。奥村弥生!」
ばちばちと幻聴が聞こえた。
まるで二人が啀み合っている、そんな空気だ。
日和は心のどこかで波音を思いながら複雑な心境になる。
(あの……早速居るんですが、どうしたらいいんだろう……)
結局日和の両隣に弥生と命が立ち、廊下を歩くことになった。
玄関へ向かい、靴を替えて外へ出る。
「ねぇ日和、こうして歩くのも久しぶりなんだし寄り道しようよ!」
以前一緒に帰ったのはいつだっただろうか。
それ程前だった為にこうして共に歩けて嬉しいのだろう、嬉々として笑う弥生に日和は優しく微笑む。
「寄り道? 何処がいいの?」
「んじゃ商店街裏のケーキ屋に行きたい! 中で食べられるんだよ!」
「そうなんだ。えっと……櫨倉さんはどうする?」
「僕? じゃあ、お邪魔しようかな。いい? 弥生さん」
折角一緒に帰っているのだし……と日和は命にも問う。
笑顔を向ける命の腹の底がどうにも黒く感じたのか、弥生は一瞬命を睨み付けるとすぐに笑った。
「早速名前呼び? 別に良いけど。……新しく見つけたケーキ屋はこっちよ」
弥生の案内でケーキ屋へと向かう。
弥生はこの近所に住んでいる為、商店街の土地勘がしっかりしてる。
彼女の迷いのない案内で道を進んでいくが、『このまま何事もなく終わってほしい』と日和は心底願うばかりだった。
「へぇ……<パティスリー・リトルアリス>……可愛いお店だね」
向かった場所は本当に商店街のメイン通りから一本裏の道にあった。
大きな格子状の窓からは店内が見え、ケーキや可愛らしい包装をされた焼き菓子が並んで見える。
店内左側の奥にはテーブルが見え、確かに飲食ができそうな店だ。
お店自体も緑の観葉植物や花に囲まれ、それこそ童話のアリスが迷い込みそうな可愛らしい外観をしていた。
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