1章女王編・上

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9-4 日和の謝罪・1  朝、柔らかなベッドの上で目を覚ました日和は体を起こした。  他人の家なのにどこか馴染んだように広がる部屋。  昨夜は特別にこの部屋の中で食事をさせてもらった。  沢山の使用人が居るし、華月という付き人の女中も居るが、全てに配慮して竜牙は誰にも会わせなかった。  それから食事を終えて眠りについたのが昨日。  目が覚めたこの空間、日和が真っ先に頭に浮かんだのは――お風呂だった。  一昨日は生家に戻ったし、昨日はそんな思考も無かった。  流石にこのままでは嫌である。……が、だからと言って今現在の時刻は午前5時半である。  こんな時間に入浴したいと我儘を言う訳にはいかない。  旅館ではないし、わざわざ準備させるのも申し訳ない。  そう思って日和はただベッドに座り込んでいた。  ――コンコン。 「ふぁい??」  ただぼーっと窓の外を眺める。  ただそれだけだったのに、部屋の外からノックが聞こえて日和は変な返事をしてしまった。  こんな朝早くに誰だろうか?まさか、竜牙?  大きな物音を立てた覚えはない。  だが、誰かが日和の起床に気付いたらしい。  逸る心臓に無性に焦っていると、扉は開いた。 「おはようございます、日和様。やっぱり朝早いですね」 「華月、さん……!」  廊下から現れたのは早朝でありながら既に身なりを整え、女中として凛と立つ華月だった。  『やっぱり』と言う辺り、日和が早起きであることを既に熟知している。  そんな華月に驚いていると、華月は日和の傍まで寄って優しく微笑んだ。 「日和様、お体は大丈夫ですか?」 「あ……えっと……」  一昨日、日和は帰らなかった。  もしかしたらそのことを怒っているのではないか、とも思ったが……心配された。  きっと昨日怪我をしたことも、竜牙から聞いている事だろう。  それだけでも十分、自分は悪い事をした気持ちになった。  謝らなければ。  そう思った時、華月の表情は一瞬だけ哀しそうになってその姿が視界から消えた。
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