1章女王編・上

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   日和の謝罪・2 「……!」  がば、と全身に圧を受けて、抱き締められたのだと気付く。  同時にその身体が小さく震えているように感じた。 「あの、華月……さん、ごめ、なさ……」 「日和様がご無事で良かったです」 「えっ……?」 「勿論日和様の事は心配しておりました。だけど、それよりも、こうしてこの家に帰ってきていただけたことが……私はとても嬉しいです」 「あ……」  昨日、竜牙は言っていた。  『外の範囲には必ず誰かがいる。それは家族かもしれない、友人、もしくはもっと外の人間だ。日和がもしその人間が認知できたら、言え。なんでも。気持ちでもいいし、我が儘でもいい』  ……と。  その範囲に華月も居ることに、気付いてしまった。  彼女はもう、他人なんかじゃない。  玲や竜牙、波音達と同じなのだ。  そう確信した時、目からは再び涙が零れて、自分を抱き締めてくれる体を日和は抱き締めた。 「ごめんなさい、華月さん……。ありがとう、ございます」 「いいえ。私は、日和様がこの家に戻ってきてくれただけで、十分なんです」 「……華月さん、私……この家が嫌いになった訳じゃない、です。どう過ごしていいかはまだ分かりませんが、こんな私を気にかけて声をかけてくれる皆さんに、感謝しています。  私は、ずっと孤独に過ごしてきました。だからか皆さんともどう接したらいいか分からなくて……。竜牙のお仕事も、邪魔してるんじゃ……と不安になっていました。だから、帰ることができなくて……」 「日和様……。……大丈夫ですよ、何かあれば私にお申しつけ下さい。不安なことも、心配なことも、なんだって。貴女はもう、この置野家のご家族様の一人なんですから」  自然と出た言葉に、華月は優しく微笑んで返してくれる。  甘く、溶かしてくれるような優しさだった。  日和の過去には知らない事ばかりを、この家は、この人達は与えてくれる。 「ところで日和様、朝ですが……もう、お食事になさいますか?」 「あの……えっと、少しだけ、体を流したいです……」 「うふふ、ではお風呂ですね。只今準備致しますから、お待ちください」  昨日も竜牙に食事の催促をしたのに、華月もにこりと笑って準備に入る。  どうしてこんなにも親身になってくれるのだろう?  だけどこの温かな気持ちは、自然と零れた言葉は、自分が知ったものだ。  お昼には、心配をさせてしまった波音と玲に謝らなければ。  竜牙も一緒に居る筈だ、皆の前で、しっかりと謝ろう。  華月の入浴による再度の呼びかけから体を温め、綺麗にした日和はこの後の為の気持ちを強く思うのだった。
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