1章女王編・上

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   日和の謝罪・3 「昨日は、ごめんなさい」  昼食時、日和は深々と頭を下げる。  今日は波音から声はかからなくて、だから日和は自分から屋上に向かった。  いつもの三人は既に昼食の準備をして揃っている。  そこにはしっかりと日和の分の場所を用意して待っていた。 「……はぁー。なぁに?今更謝りに来て。それで私が直ぐに許すとでも思ってるの? 私、まだ怒ってるのよ?」 「まあ、僕も怒ってるけど……」  最初に口を開き、低い声で睨み付けているのは波音だ。  それに合わせてか、玲の口数も少ない。 「夏樹も心配していた。あまり一人で抱え込むな」  竜牙も、波音達とは少し違う表情ではあるが静かに言う。  この状況、皆の雰囲気、完全に嫌われてしまった、と日和は一人心の内で自責する。  ここで初めて嫌われたことの悲しさや喪失感を味わった。  結局ただ仲良くしているつもりだったのだ。  相手の気持ちなんて、皆がどんなことを思っているかなんて想像できていなかった。  自分からも理解しにいかなくてはいけないのだと気付かされた。 「――全く、いつまでそうしているの? 早く食べないと時間、無くなるわよ?」 「え……」  いつの間にか先ほどとは打って変わって、口先を突き出して不機嫌そうな波音がそこにいた。 「日和ちゃん、ちゃんと食べてる? ちゃんと休んでしっかり食べないとだめだよ?」  勝手に日和の皿におかずを盛る玲は、微笑んで日和に差し出す。  その皿にはご飯と日和がよくつまむおかずが乗っている。 「分かったか?日和。ここに居るのは、こんな奴らだ」  腕を組む竜牙は真っ直ぐに日和を見ている。  少し(にじ)み出そうな涙を堪え、その輪に近づき、日和は皿を受け取ってはにかんだ。 「えと……いただきます」  初めて日和が選んだ居場所だった。  流されたままの与えられた場所ではない、日和が自分で選んだ場所。  そこは優しくて、温かくて、とても眩しい。 「全く、たったの1日だけど長いわよ! それもこれも全部あいつのせいよ、もう!」  唐揚げを頬張る波音は一昨日と同様に不機嫌だった。 「日和ちゃんはもう大丈夫? 落ち着いた?」 「あの、もう、大丈夫……です。ご心配おかけしました……」  玲は日和の心配ばかり聞いてくる。  これで3度目だ。  ぺこりと再度、日和が頭を下げれば玲は「そっか……」と控えめに笑っているのは……多分まだ日和のことを気にしているのだろう。 「あの、櫨倉さんは……」  そうして訪れた静けさの中、日和は口を開いた。  今日、教室に彼女の姿は無かった。  だからこそその名を挙げると玲と波音が目配せをする。  それから一拍置いて表情を変えずに答えたのは、竜牙だった。 「……櫨倉命はこの後16時に神宮寺師隼から処分を言い渡される。それまでは神宮寺家で聴取中だ」 「処分って、あの……!」 「日和、これは仕方の無いことなの」  竜牙に身を乗り出す日和に、波音は言葉を遮る。 「波音……?」 「櫨倉命は命令違反をしたの。それだけでなく、彼らの必要性と私達への信用を地に落としたの。だったら、彼らの雇い主となる師隼が処分を下すのは、仕方ないことだと思わない?」 「……」  日和には何も答えられず、ただ(うつむ)く。  すると話を終わらせるようにチャイムが鳴った。 「私も今回の件は納得してないの。悪いけど、先に行くわ」  真っ先に波音は日和の横を通り過ぎ、校舎へと向かう。  玲は悲痛な面持ちで真っ直ぐに日和を見つめた。 「波音はあの人を許せない気持ちでいっぱいなんだ。自分で処分を下したいと思ってる。……でもね、日和ちゃん。僕も、怒ってるんだ」 「兄、さん……」 「僕はこれ以上日和ちゃんに傷ついて欲しくなかった。だけど君は傷ついた。心だけでなく身体だって死にかけて。僕は……日和ちゃんが大切だから元気になって、心底安心した……」  玲は腕を伸ばし、日和を抱き締める。  その力はとても強く、逃げる気は無いがそんなことも許されない程で。  少しだけ玲自身も手が震えていて、ただ……何も言えない。  大きな心配をかけさせてしまった申し訳ない気持ちだけが溢れた。 「もう、こんな気持ちにはなりたくないんだ。特に、同じ人間のせいでこれ以上、日和ちゃんが傷つくのなら僕は……その人を許す訳にはいかない……」 「……ごめんなさい、兄さん…………」 「……ほら、行こう。授業始まるよ」 「はい……あ、ちょっと待って」  立ち上がる玲が伸ばした手を取ろうとして、日和は竜牙に向き直る。 「た、竜牙……私、後で師隼の所に行きたいです。良いですか……?」 「ああ。……というより、日和は師隼に呼ばれている。終われば、向かえに行く」 「分かりました……。じゃあ、また後で」 「ああ」  竜牙は承諾し、立ち上がると荷物を持って先に姿を消した。 「行こう、日和ちゃん」 「はい……」
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