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6600万年前、北アメリカ大陸。  平原を小さな動物が走っている。 原始的な哺乳類。 後に歯の化石が発見され『最初の歯』という意味の『アルファドン』と名付けられた。 この小さな原始哺乳類、物語の主人公をと呼ぶことにしよう。 好奇心旺盛な若いアルは、ナンヨウスギの生い茂る森を出た。 だが平原には、身を隠す物は何もない。 この時代、まだ草、つまりイネ科の植物は存在しない。 露出した土に、ところどころシダが生えているだけである。 数匹の小型恐竜が、無防備なアルを見つけた。 体長は1.7m、原羽(げんう)に覆われ、正面についた大きな眼、鋭い歯、両足に鉤爪。 この獣脚類はトロオドン、まるで狩を楽しむように、哀れなアルを追いかける。 アルの目の前に、灰色の岩のようなものが現れた。 それは平原にのんびりと伏せている大型植物食恐竜で、アルは迷わず尻尾からその恐竜の背中に駆け上がった。 首の周りには大きな硬いフリルが(ひさし)のように張り出ていて、アルはその陰に滑り込んだ。 追いかけて来たトロオドンは、しばらく大型恐竜の回りをウロウロしていたが、諦めて帰って行った。 アルは庇の下から這い出ると、恐竜の鼻先に登った。 額から2本、鼻に1本角があるその大型恐竜は、トリケラトプス・ホリダス。 体長9m、白亜紀後期、竜脚類絶滅後、この大陸最大の植物食恐竜である。
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