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「本当にずっしりとしてますね。」
「そうでしょう?」
気さくに話す彼だが、どうかした拍子に見せる彼の視線が少し気になった。
彼は時折、とても冷ややかな瞳で僕を見るのだ。
内心では、僕のことを見下しているのかもしれない。
だが、それも仕方のないことだ。
今いる居間だけでも、僕のアパートよりずっと広い。
大きな窓から見える人々は、さながら地を這う蟻のようにしか見えない。
それに対して彼は、天界に住まう天使のような存在なのかもしれない。
「それで…今日、お越しいただいたのはアンナのことなんですが…」
「……はい。」
「私は彼女のことを愛しています。
彼女とは結婚したいと考えております。」
彼はもちろん知っているはずだ。
僕と彼女が恋人同士で、将来を誓った仲だということを。
しかし、彼の目にはひとかけらの戸惑いも遠慮もなかった。
まっすぐに僕を見て、はっきりとそう言ったのだ。
「ジュリアンさんはどうお考えですか?
私と結婚するのと、あなたと結婚するのとでは、どちらがアンナにとって幸せなことだとお思いですか?」
さらに続けられた彼の言葉に、僕はただ追いつめられるだけだった。
そんな僕の様子を見て、彼はくすりと笑った。
「あなたにもおわかりなんですよね。
だけど、おかしなことにアンナにはそんな簡単なことがわからないようなのです。
アンナは、今もあなたのことを愛していると言い、あなたとしか結婚するつもりはないとそんな馬鹿なことを言うのですよ。」
ベルナールはそう言うと、大きな声で笑った。
どこか狂気染みたその笑いに僕は薄ら寒いものを感じた。
「さっきも申した通り、私はいつも非常に忙しいのです。
時間を無駄にはしたくありません。」
そう言うと、彼はインターフォンを押して大きな声を出した。
「アルフレッド!来てくれ。」
すぐに、先程の年配の男がやって来た。
「私はつまらないことに時間をかけるのが、昔から嫌いでね。」
そう言いながら、彼が革の手袋をはめる仕草に僕は何とも言えない違和感を感じた。
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