其れは、西の宮廷にて。

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 隣合う友好国ながら、僅かに文化の違いを垣間見るは民の出で立ちからか。女は髪型の流行り違い以外小袖を纏い、東とそう変わり無いのだが、男は少々違う。西の男は、元服より髪を晒す事は無作法とされ、身分変わり無く冠や烏帽子で覆う習慣がある。そして、其の出で立ちも又異なり袍なる上衣を纏う。此の袍にも、身分により色等が定められて居るらしく。西へ来るのは初めての一切は、其の書物の絵でしか確認していない景色を目の当たりにし、感銘を受けてみたりと。  休憩を挟みつつの結構な旅。漸く都、そして御所へ。此の日は、東にて一定の身分ある者のみ許された衣を纏う姿にて臨んだ一切。宮廷へ足を踏み入れる者は、東西共通で原則礼装との規律に従わねばならない為だ。一切も、場へ相応しき出で立ちが望まれる。其れは小袖に袴、上衣は濃い藍色に並ぶ小紋が美しい、裃(かみしも)なる上衣に身を包んで。馬車より降りた其の容顔は、何時も通りの美麗な無表情。此の西の宮廷へ招かれた事へも臆せず、出迎えに並ぶ武官等へと、厳かに頭を下げる姿があった。勿論、武官等も揃い頭を下げ敬意を示す。西の武官の出で立ちは、緋の袍を纏い、巻纓冠(けんえいかん)に緌(おいかけ)を付けたものを頂く。武官足る勇猛さも伺えるが、何と雅やかな景色だろうか。  其の中より、此方は文官であろう者が歩み寄って来た。文官の出で立ちも多少変わり、黒に染まる袍の色は厳かな雰囲気を醸す様だ。勿論、髪は垂纓冠(すいえいかん)におさめ笏を携えて居る。其の文官は、一切へ改まり一礼する。 「――よう参られました、一切殿。貴方の東でのお噂は我等も予々……帝と后妃様も御待ち兼ねに御座いまする」  此れを受け、一切も改まり腿へ手を付け深く頭を下げた。 「此の度は、身に余る光栄な御依頼に身が震えた程。まだまだ世を知らぬ若輩に御座いまするが、どうか宜しく御願い申し上げまする」
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