其れは、西の宮廷にて。

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 早速と御所内へ。長く続く廊下、厳かで重厚な襖が開かれ、漸く謁見の間。其処へ控えるは、先ず上に座する西の帝の姿。西の光なる其の御方は、妖艶で気丈な瞳が印象的な女性。年の頃は朱夏盛りと覚しきも、元服の子が居るとは思えぬ程の若々しさを感じる。濃紫を基調に、季節を表す雅で華やかな唐衣を纏う姿。  奥へ進む前に一度拝を捧げる一切へ、帝は微笑みと会釈にて受け止めた。鬢削ぎの長く美しい髪が、軽く頭を下げた身の動きに肩を撫でて。 「よう参られた、一切殿。私は、此の西を任されて居ります、名を明石(アカシ)と父より賜りました者。さ、此方近くへ……我が后妃の望みを叶えて頂き、感謝して居ります」  言いながら、綻ぶ口元を扇で覆い傍らへ控える后妃へ視線を送る。后妃なる御方は、堅実で精悍な雰囲気漂う美丈夫、帝と同じく朱夏も盛りだろう。髪は垂纓冠におさめられ、纏うは厳かで品格漂う薄紫に染められた袍に笏を携えて。  明石の許しに奥へ進んだ一切が、再び拝を捧げると后妃も口を開き。 「真に感謝申し上げまする、一切殿。私は明石帝后妃、名を近江(オウミ)と父より賜りました者に御座いまする」  后妃近江が名乗りを上げたのを機に。 「一切殿。どうか楽に、面を上げて下さいませ」  明石が一切へ動きを促した。徐に顔を上げた一切は、西を照らす二つの光を見据えて。 「西の帝並びに后妃様より、身に余る光栄な御言葉の数々。此の一切、心血注ぎてお仕え致したく存じまする」  厳かに響く一切の言葉へ、明石は又綻ぶ口元を軽く扇子で隠す。 「まぁ、そう固くならず。皇子の教養の為に、宜しくお願い申し上げます……して、此方が我が子、皇子成る聖(ヒジリ)です」  此処で、己の下手右へ控えていた青年へ視線をやった明石。先程迄上の御二人へ向けて居た意識と顔を、そちらへも改めて顔を向けた一切。が、何故か其の姿に一瞬目を奪われ、大きく胸が脈打つ感覚。
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