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琥珀の命により、東の国宝と相成った一刀帝直筆の恋文。其れは、次の朝より緊急に一刀と一切の筆跡鑑定が行われた。其れに合わせ、箱の鑑定も。現在趣向による紙の加工技術が精巧で、判断には時と人員も要し困難と言う理由もある為箱との判断に。
筆跡鑑定は通常通り、慎重に数名の鑑定員により判断される流れ。見れば、素人でも分かる程に似る一切と一刀の書へ戸惑う鑑定員等。しかし、双方の字に一部特徴的な癖の違いを見出だす事が出来た。此れが意識的に違いを見せるには困難な事から、一切と一刀の字は別のものと判断がなされたのだった。只、其れを見出だすに全文を確認せねばならず。鑑定員誰もが、其の余りにも甘い言の葉の羅列へ赤面を禁じ得ず。一刀の絵姿からは、おおよそ想像も付かぬ意外過ぎる一面へ複雑な空気感があったと云う。
そして、更に。此の結果と、西での鑑定を要請した琥珀。聖には其の旨を明石へ伝える書簡を、一切には兄弟の無実を証明する帝の書状と、件の要となる東の国宝を託された。勿論、国宝と一切の護衛に付くは菊水。と共に西へと舞い戻ったのであった。
西の御所へと辿り付くと、聖の帰りを待って居た家臣が出迎えに並ぶ。が、聖の一歩後方へ見えた一切と菊水へ戸惑いのざわめき。聖は、家臣等を見据え。
「東の帝との緊急会談で、驚くべき事実が明るみに出た。一切殿の御先祖は、東皇家の血を分かつ人物で在られた」
大きな動揺と更なるざわめきを見せる家臣等へ、聖は続ける。
「其の証明として、東の帝より国宝なる物を御預かりした。一刀帝が真に筆を入れた文である。此の筆跡が、一切殿とほぼ一致すると、東で判断がなされたのだ」
此の宣言へは、皆どよめく声すら忘れ口が開いたままに。そんな中、聖へ促された一切が、美しい風呂敷に包まれた暗黒の歴史――否。熱い恋の歴史を詰めた箱を抱え前へ。並ぶ護衛の菊水と共に、西の家臣等へ厳かに頭を下げる。
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