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「其れも此れも全ては、西宮廷と皇子を守る為だとそなたが言うたからだ!」
「其れは真の話です。しかし、貴方の中に利権への興味が無かった等とは言わせませぬぞ……!」
此の不毛な言い合いへ、側近は堪らず。
「御二方共、一先ずお静まり下さいませ……!」
老齢の身を震わせる拝を前に、柳と馬酔木も我に返る。
「此のままでは、奴が后妃の座へ着く事になりそうですな……」
一息吐いての柳の言葉へ、馬酔木は青ざめるも。
「ば、莫迦な……東の下級貴族と等、帝が御許しになるか。そもそも皇子様は、第一子にして唯一の御子なのですぞ」
世継ぎはどうするのだと理由を口にしつつも、馬酔木の顔色は悪いまま。
「そんなもの、側室を置けば容易い事……奴が后妃の座を手にすれば、我等の出世は最早絶望的です」
頼りない望みを込めた馬酔木の発言は、柳の静かな声で一蹴される。馬酔木は、頭を抱え項垂れてしまう。
「おのれ……私より位置を奪うておいて、挙げ句后妃の座をだと……こんな事、認められるか……っ」
馬酔木の恨み言を耳にしながら、柳も拳を握り締める。一切が西の后妃となろう等、己も認められない。此の事態へ、直ちに動くべき。仲間を集め、明石へ進言せねばなるまいと。
しかし。影より投げた小さな石が、天より大岩となり落ちて来る等と、今の彼等は知る由も無いだろう。其れは、一切が桂へ預けた聖襲撃の一件。桂は、一切を見送ったあの後直ちに動いて居た。そして、此れには海里も少なからずの尽力を。一切と菊水が、水面下で行った極秘調査。其の仕上げともなる仕事である。
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