出で合いて。

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 桂の部屋にて、一先ず単身で菊水が挨拶を兼ね訪ねて来た処。 「――菊水殿。特定しました……あの日、あの山へ入った者を」  座するより先に、桂の感情高ぶる潜めた声にて告げられる。菊水も、瞳を鋭くさせて。 「やはり、裏で動いた者等が居たのですな」  桂は、憤りの中頷く。下らぬ欲で聖を傷付ける等と、何足る所業であろうかと。懐より取り出した書簡を取り出し、菊水へと。 「其の者は、都より離れたある村の者でした。大工の臨時作業員等と定まらぬ職で生計を立てて居った者です……賭博に傾倒し借金もあり、村では評判も良くは無いと。此れ迄、正式な狩猟契約も無く、無断で山菜採りや狩猟を行って居た様です」  犯人である人物の人となりを語る桂。容疑者は男であると。山の抜け道は勿論、監視の動き等も一定の法則があるとも熟知して居た。書簡を確認する菊水は頷きながら、口角を上げて。 「そりゃ、届けの確認等ある筈無いな。見付かった処で、無法者が犯した不慮の事故……揉み消すつもりで居たろうが……」  桂が頷く。 「ええ。警官隊の捜査が行き詰まったのは、どうも密やかな圧力があった様です。しかし、今回の一件で知り合えた方の母君が、現警官隊総司令と幼馴染みでしてね。総司令も腐敗に大層ご立腹で……そちらより、此の男と接触した者を捜査する為極秘で手を回して貰えました――」  経緯を語る桂。山へ入った者が特定出来ぬと伝え聞いた一切は、此処に疑問を持った。確かに証拠となる矢の出所は特定困難、無断の立入りを調べるにも確かに人員も手間も居る。しかし、今回傷を負ったのは皇子である聖。人の命に優劣は無いと言え、此の大事に消極的な捜査に違和感があったのだ。何処かで、動きを制限する力が働いて居る筈と。
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