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「驚きましたよ。結果、一切殿が当初見立てた通りでして……極秘調査にて容疑者の男へ接触したのは、柳殿の側近の一人と確認出来ました。警官隊への圧力は、馬酔木殿です――しかし、推察だけでよく此処迄の調査が出来ましたな……一切殿は一体、何者なのでしょう?」
桂は、最後に声を潜めて訊ねた。本人の勘とやらが、此処迄的を射るものであるかと。何か、神秘的な力でもあるのだろうかと。
菊水は、書簡を懐へしまいながら口の端を緩める。
「ああいう奴なんですよ。長く付き合っても分からない。とにかく、『ああいう奴』。面白いでしょう?」
目を丸くさせた桂。しかし。
「成る程――」
込み上げる何かに吹き出した。綻ぶ口元を笏で覆いながら、一先ずの納得をしたのであった。
一方。明石と近江が揃う場にて、聖は一切と共に拝謁へ。其処へは、海里の姿も。聖は、早速琥珀よりの書簡と一切が預かった東の国宝を明石へ。当然、明石と近江が確認を行う。のだが、此処で又地獄の空間。明石は頬を染めながらも、物語でも読むかの如く夢中で読み進める。そして表情は冷静ながらも耳が赤い近江は、時折文より視線を反らし、確認を終えると気まずい咳払い。一切にとって、正に地獄の山を越えた処で。
「――確かに。一切殿の書類の字と見間違う程です……其れが、国宝なる物と同じくであるならば、此れはもう天の悪戯でしょう。直ちに、此方でも鑑定を行います……一切殿の無罪は、もう確定致しましょう」
明石は、一切へと微笑みそう告げた。一切は、身を改めて明石へ厳かな拝を捧げる。
「有り難う御座いまする」
此の景色へ、瞳を滲ませた聖。
「良かった……」
安堵の声と鼻を啜り、そう込み上げる思いの丈を呟く。そんな聖へ、明石と近江が顔を見合せ頷くと。
「聖。そなたは、一切殿を后妃へ迎えたいと申したな」
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