出で合いて。

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 改まりそう発した明石の言葉へ、聖は一瞬戸惑うも真っ直ぐに明石を見据えた。 「はい。彼以外を后妃へ迎えるつもりは御座いませぬ」  静かに、だが強く答えた。其の声と眼差しを、明石と近江は暫し見詰めて居たが。 「一切殿。我が子は、こう申して居りますが……貴方は、聖の伴侶となる覚悟はお有りか?」  聖より下へ控える一切へ問う明石。一切も、心に迷い等無い。改まり拝を捧げて。 「は。烏滸がましい事とは承知の上。其れでも、私にとって皇子様は唯一無二の存在に御座います。皇子様の為ならば、命は勿論魂すら捧げられます」  一切の其れは、愛する者へ曽ても捧げた覚悟と愛。今生でも、何ら変わり無い思いであった。聖は、後ろの一切を振り返る。其の姿が、涙で滲む。蘇る景色、あの日の姿。己の為に、多くの家臣へ拝を捧げてくれた東の天子の姿が。  明石、近江にはそんな二人の胸の内を知る由は無い。だが、其の一切の声と姿には強い覚悟が見えた。明石が、深い息を吐くと同時に表情を和らげる。 「そなた等の心が見えた……祝福しましよう。聖の即位を以て、一切殿を后妃として迎える――近江。海里。異論は」  近江が明石へ頭を下げる。 「御座いませぬ。聖と一切殿を、心より祝福致します」  続き、下へ控える海里も涙を堪え拝を。 「私も。何の異論が御座いましょう……此れよりも、御二人を支える為に全てを捧げる覚悟に御座いまする」  聖が、海里を振り返る。其の拝を見詰めて。 「此れより、宜しくお頼み申す――兄上」  其の言葉へ、海里が思わず顔を上げてしまう。が、照れがあるのか直ぐに身を戻してしまう聖。海里は、涙を拭うと再び其の背へ拝を捧げたのであった。
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