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「では、譲位に向け――」
「帝。申し訳御座いませぬ!警官隊総司令より、緊急報告に御座います……!」
目出度い空気の中より、何時かの如く又明石の思いが削がれる。険しく慌ただしい護衛官の声が、外より響いて。又も緊急とな、今回は何なのだと若干苛立ちを乗せ。
「何であるか。早う」
渋々入室を許すと、海里が襖を開いた。通されたのは、警官隊総司令なる男。上の面々へ厳かな拝を捧げ。
「帝。后妃様。皇子様。大事に御座いまする……皇子様襲撃に於いて、大変な事実へ辿り着きました!」
低くも強く響いた其の声は、憤りがあるのか震えても居た。当初何事かと明石、近江も眉を潜めて居たが、其の声に前のめりとなる。此の様へ、下の一切は僅かに口の端を緩めてしまう。
「何だと……何があった」
明石の声に、懐より書簡を取り出す総司令。海里が預かり、明石へ。其れを広げ、読み進める明石の表情が徐々に険しく変わり行く。遂には、書簡を取る手迄が震え出したのだ。案じた近江が。
「帝……如何に」
其れへ答えるよりも、近江へと書簡を差し出した明石。明石の様子へ、近江も表情固く其れを読み進める。明石と同じく、書簡を持つ手が震え、表情も。そして、遂には。
「此れは真なのか、弦月(ゲンゲツ)……っ!」
書簡を握り締め憤りのまま出た近江の声へ、弦月と呼ばれた総司令が再び拝をする。
「は!警官隊指導役馬酔木が、捜査員の妨害を。そして、其処にある様に皇子様襲撃犯へ接触したのは、法務部署監察役柳の側近に御座います。更に、柳の方からも捜査の妨害があったとの事……!」
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