出で合いて。

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 其の言葉へ海里も驚きに目を見張る。そして、聖も先ずの驚きが隠せず。曽て信頼した部下であり、己の武術指南役として父に抜擢された馬酔木迄が此の一件へ絡んで居た等と。そして、明石へ目を掛けられていた柳もだ。混乱激しくも、聖は一切を徐に振り返る。此の空間で、唯一冷静で変わらぬ無表情の一切と瞳が合う。聖へ軽く頭を下げて、僅かに口の端を上げる一切へ聖が息を飲む一瞬、懐かしい寒気。此れは、一切――一刀――の執念。聖――錦――を傷付ける者は、何者であれ容赦せぬと。  明石、近江の怒りは図り知れず。堅実な弦月も、此の事態への憤りと不甲斐なさに震えが止まらない。 「此の腐敗に気が付くに遅れを取りました。全ては此の私の監督不行き届き……真に、申し訳御座いませぬ!」  弦月の詫びも、今の明石と近江には届かぬ様子。目を掛けた部下等の、飛んでも無い裏切り。最早、情けは無用。 「直ちに柳、馬酔木両名を捕えい!事と次第に依っては、牢問も辞さぬ!」  激昂と共に、明石より正式な名が下された。弦月は、下げたままの拝へ再び力を込め頭を打ち付ける。 「御意に!」  弦月は、素早く腰を上げると部屋を飛び出す勢いで出て行った。明石より出る名は明白。既に、警官隊は御所の外へ控えさせて居る。此れより、御所内は飛んでも無い騒ぎとなろう。 「聖。私と近江も動かねばならぬ。そなたは勿論、一切殿も此の事件の被害者である。本日は、そなた等揃い部屋より極力出ぬ様に……後、外よりの接触は必ず海里を通すのだぞ」  明石はそう命じると、近江を促し立ち上がる。父母の様子へ動揺する聖は、身を改めて手を付ける。 「か、畏まりました……!」  現在、父母共に酷く立腹。足を進める姿へ聖と一切が拝するも、視界に映す余裕無く部屋を出て行ってしまったのであった。
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