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そんな聖の瞳は、美しくも気高い。一切――一刀――が惹かれ、焦がれ続けた変わらぬ瞳。此の瞳に、己だけを映して居たい。己だけのものにしたいと。しかし、共に居れば居る程此の瞳は輝いて美しさを増す。其の度、捕えたつもりが此の腕をすり抜ける感覚。そして、こうして生まれ変わっても尚。
けれど。
「俺自身が、お前を更に美しくさせるのだとはな……皮肉なものだ」
溜め息混じりの声に、聖は又笑う。
「私には貴方が全て。其れの何が御不満か?」
「やはり『帝』であれば良かった。お前を閉じ込める確かな籠が必要だ」
馴染みある我が儘な言葉。一瞬目を丸くさせる聖だが、赤く染まり行く顔を一切の胸へ顔を埋める。
「うん。其れでも良かったかな……貴方が私へ下さった籠は、本当に幸せな籠だったから――でも」
聖は、一切の顔を見上げて。
「今度は、私が貴方を籠に入れるんだ。私から離れないで、ずっと御側に居て貰うぞ。其れがね、『錦』の夢だったんだよ」
何とも無邪気な笑顔で語られる聖――錦――の野望。一切は苦笑う。やはり、今生も敵わぬと。不本意ながらも、此の笑顔を見た後の己は何時も逆らえず。麗しい笑みを浮かべる聖の顔へ、一切の顔が近付く。徐に開いた唇より。
「拝命致しまする。帝――」
天下人なる御方へ、永遠の愛と忠誠を誓う。程無く重なる二つの唇は、時を忘れ互いの温もりだけを味わうたのだった。
只一方でそんな一室除き、酷く慌ただしい御所内。其れもそうだろう、出世街道を走る貴族等の緊急捕り物が行われたのだから。しかも、警官隊総司令官自らの指揮でだ。突如部屋を囲まれる柳と馬酔木。当初懸命に足掻いたものの、総司令官迄が出て来た事実に蒼白。重要参考人として、出頭を余儀無くされた。
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