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大切な息子であり、皇子なる聖に傷を付けられたのだ。明石、近江共に其の怒りは凄まじく。馬酔木、柳は潔さの欠片も見えず、容易く口を割らぬと判断した弦月は、明石の許可も有り即の牢問を命じた。此れは、二人の地位を考えれば異例の流れでもある。柳、馬酔木も此処で漸く己等の立ち位置を痛感。真を告げても不敬は確定。かと言え、牢問の過酷さに耐えられる精神等、到底ある筈も無い。追い込まれた二人は、開始早々事のあらましを吐き出した。只、互いが互いに責があると嘆願込めた罪の擦り合い。西の名家貴族足るや、其れは弦月も眺めて居て嘆かわしいの一言で。粗方の調書が、明石と近江の元へ届けられたのは夜。しかも其れは、唾棄すべき理由。明石と近江の怒りは更に増したと云う。
其れは、次の日。明石、近江、聖も通常の公務を止めての緊急議会を開く事に。聖の暗殺未遂は、聖と急激に距離を縮めた一切の失脚を狙った動きであったと、場へ呼ばれた一切へも告げられた。
「――一切殿。此の私が此方へ呼び寄せた為に、酷い危険に晒してしまった……申し訳無く思うて居ります。どうか、御許し頂きたい」
先ず近江が改まり、一切へ頭を下げる姿。事の真相へ、近江も堪らぬ思いを味わうたのだろう。そんな神妙な謝罪へ、一切は恐縮し近江へ拝する。
「后妃様。どうか、私めへ其の様な事はなさらないで下さいませ。后妃様の御導きなくば、私の人生等薄く浅いものとして終わる筈に御座いました……其れを、こうして色鮮やかなものへ変えて下さった。皇子様との御縁も、西の素晴らしき精神の持ち主足る御方との御縁も、全ては后妃様の御導き。私からは、御礼の言葉以外御座いませぬ故」
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