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一切の言葉へ、近江は声無くも再び深く頭を下げるのであった。続き、明石が口を開く。
「二人の罪は重い。我が后が呼び寄せた国賓への卑劣極まりない愚行、其れ故聖にも傷を負わせた事……私と后の意思に背き、欲に目が眩んだ。不敬相当と考えて居る」
明石が口にした、不敬。此れは、東西共に最も重い罪とされる。帝の御心に背き、其れを軽んじ、侮辱する行為等が其れにあたる。不敬と判断されれば帝の一存により極刑若しくは、其れに相当する刑の執行が確定するのだ。其れもやむを得まいと考える明石と近江。昨夜の内に、馬酔木と柳の身内より嘆願書が届いては居る。しかし今回の一件は、其の下らぬ私怨に東迄巻き込んでの大事にも広がった。西の帝なる明石の面目は丸潰れ、見る影も無く砕かれたのだから。そして此の刑罰を如何にするかは、東の帝への体裁も含む。
「聖。私の思いは強くあるが、そなたは」
明石が、聖へと意見を促す。神妙に考え込む聖。己の負傷よりも、一切の身と精神を追い込もうとした事への憤りが強い。そして帝なる母の心を裏切った罪もだ。聖も、皇子として育った西皇家の誇りがあるのだから。様々な思いの交差に、厳罰は当然だろうと納得する己も確かに居る。
しかし。
「は。私の傷に関して、不慮の事故であると申すならば……二人を信じとう御座います。減刑の余地をとも」
愛する一切と共に、こうして生きて居る現実。二人を憎むより、此の現実を尊ぶべき。己は、何も奪われてはいない。ならば、二人の命を取る迄は出来ぬと。聖の意見へ神妙に頷いた後、明石は一切へ顔を向ける。
「一切殿は、どうお考えか。遠慮は無用。貴方は、此の事件の一番の被害者です。率直な思いを」
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