出で合いて。

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 一切は、明石へと拝を捧げる。 「私自身は、こうして無傷で居ります。私怨を向けられたとして、こうして居る以上罪を問う等出来ませぬ……只、不躾ながら憤りを申し上げるとすれば、皇子様の御身へ傷を付けた事実に御座います」  声は冷静ながら、聖の傷だけはやはり許せぬ。言うなら、前世より変わらぬ聖の人の良さも其の燃料。清い心を持つ聖への所業に、更なる怒りが増す。己が帝であったならば、関わった者全て極寒の地で重労働者として死を望む程に心身を酷使させてくれると。  しかしながら、実害が無い以上聖の意見が正当なのだ。 「私の身に起きた事へは、彼等の改心を望むのみに御座います」  腸は煮え滾ったままであるが、一先ず善人ぶる一切。へ、明石も近江も感銘を受けた様子。 「一切殿。貴方の様な精神を持つ御方が、此の西の后妃となられる事を心より歓迎します。柳、馬酔木の両名へは其の慈悲を伝えよう――」  此れにより、一件への判決が明石により告げられる。柳、馬酔木の罪は不敬相当とされながらも極刑だけは免れた。結果、賠償金に加え当人と関わった者等も全て貴族の地位を剥奪、家も降格とされる事に。更に都所払い、出世昇給無しの末端の役人として各地方へ左遷が決定されたのであった。因みに、其の動向は抜き打ちで調査がなされるとも。此れよりの人生、彼等に希望と言うものは無いだろう。正に、命だけが助かったと口々に噂した。此の悲惨な落ちぶれを目にし、潔く終えた方がと囁く者も多く居たと言うのだから。果たして、何が減刑と言うべきか。やはり、帝と后妃の逆鱗に触れた事は愚であったろう。此れこそが、其の怒りによる罰。生まれながら栄華の中に居た彼等の精神が、斯様な人生に最期迄耐えられるのか。己の最期を決める自由だけが、彼等へ与えられたと言うべきやも知れない。
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