出で合いて。

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 そして、実行班の男。己の欲も有りて聖を傷付けたのだ。当然極刑となる筈だが、聖の温情により免れる事に。しかし此の男、聖を射ってから罪悪感からか、酷い悪夢に魘され続け確保時よりまともな精神状態では無く。取り調べの証言も、自ら堰を切った様に吐き出したと。荒地開拓要員として送る筈であったが、牢で自ら命を絶ったと報告がなされたのだった。此の流れに、聖はよもやの疑念に息を飲んだ。『一刀』は、怒らせるととても恐ろしい帝であるのやも知れない、と。  此の一件も然り。宮廷とは、何時の時代も煩わしい。上に居座り天子と傅かれ様と、其れは多くのものを国へ捧げねばならぬ一番の従僕の地位。だが、何も知らぬ者は其の天子のより近くこそ至高と憧れる。其れを得る為に、心捨て置き焦がれて。そして、其れへ否応なしに巻き込まれる者も又。そんな勝った負けたも、上より見下ろす景色だけでは捕えられぬ。其の飛び火があり初めて、下へ目を凝らすのだ。かくいう一切も聖も、不思議な導きに嘗ての眺めありての今を生きて居る。一切――一刀――にとっては、見なければならぬ景色であったのだろう。此れより側で、聖を支える為にも。  其れは、嘗てと同じ季節の善き日。東より、華やかに飾られた馬車が一台西の御所の門を潜った。馬車を出迎えるは、爽やかな風と其れに揺れる涼やかな葉桜の音。開かれた馬車の館より出でたのは、黒の裃を身に付けた一切の姿。そして、出迎えるのは。 「――待ち兼ねました」  眩しい笑顔でそう言う西の帝、聖。纏めた髪には、垂纓冠を頂く濃紫の束帯を纏う姿。其の荘厳にして雅やかな出で立ちへ、一切が厳かに頭を下げて。 「申し訳御座いませぬ、西の帝。貴方様へ御仕えする為に、東より参りました」
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