其れは、西の宮廷にて。

6/17
前へ
/210ページ
次へ
「真に、喜ばしい事なのだけれど……一切は、環境が変わる事へ不満や不安は無いのかしら……?」  水を差すと、覚悟の上で出した母の声。其れは、母故の息子を案じる思いであった。勿論其れは、声に出来ずに居た父の心配でもあり。憂える其の瞳へ、一切が頭を下げる。そして。 「父上、母上、兄上。私は、此れ迄貴方方のお陰で多くの充実した時を頂きました。此れより私は、家の為に持てる力を振るいたい。又、どれだけ其の力があるのか私自身を試してみたいと……此れは、私の意思。未知なる世を眺めたいと言う、好奇心でもあります」  強い意思を告げる瞳へ、祭は漸く安堵した様に微笑む事が出来たのだった。此れに、父と兄も安堵の表情。一匡は、明るい話題へと口を開く。 「けど、そんなに多くの経験や知識を身に付けたお前は、最終何処へ行き着くのだろうな……宮廷出仕は勿論、都の大学寮教官長、医師も有り得るな……果ては御殿医とか」  まるで己の事の様に思い馳せる一匡へ、妻の灯は吹き出してしまう。一切も、表情を和ませて。 「まだ決めかねますが、実は治安維持部隊への補欠枠を確保して居りまして……万が一西で何かやらかした際、東で最高給を頂くには其処かと。試験も基準を満たすと判断頂きましたので」  言いながら一切は、一匡へと懐にあった書簡を出して見せる。受け止った一匡も当然驚きを隠せない。其れもそうだろう、治安維持部隊とは東の特殊戦闘部隊。国軍とされるも、少々特殊。其れは、才と精神の在り方により身分は勿論、重罪の前科すら不問とされる事。正に力こそ全ての組織。此処武の東でも、群を抜く猛者のみが許される狭き門。此処での頂点は、やはり帝、后妃、並びに其の皇子皇女の護衛官だろう。高い知能も持てば、全隊員の指導長なる枠も。そして何より、平隊員なれど高給が確約される事も又。
/210ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加