其れは、西の宮廷にて。

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 灯と疾風も、豪へと改まり頭を下げて答える姿。次に、家の希望である我が家の第二子へ顔を向けた豪。 「一切。お前は、父が私で申し訳無い程だ。多くのものを、天より一度に渡されて……真に畏れ多いが、一刀(イットウ)帝の生まれ変わりやも知れぬとも私は思うて居る」  神妙な表情で付け足した言葉。東にて其の帝とは、現在迄続く東西の在り方の礎を築いた帝の名である。此れに、一切は。 「真に畏れ多き言葉かと」  表情無く静かに答えた。突っ込みでもあったろう。しかし、豪は決意を示す表情を見せる。 「きっと、此の機会だろうな。お前達に、話す事がある……大きな声では言えぬが、我等の御先祖に東皇家の血を引く御方が居ったのだ」  まさかの打ち明けに、一匡が茶を吹きそうになるのを堪えて。灯と疾風も驚きの余り固まって。 「えっ、な、何と?」  一匡が身を前のめりにし訊ねる。一切もにわかに信じ難いと、眉間へ皺を寄せた。 「証拠があるのですか……?」  首を捻り、其の言葉の真意を求めた。豪は、依然神妙な表情のまま頷くと。 「ああ。祭(マツリ)、例のものを」 「承知しました」  豪は、祭へと何かを促した。早々に、部屋を出て行った祭。豪以外は、一体何事かと小首を傾げつつ。其れより、程無く戻って来た祭の手に有る黒塗りの箱。其れを、豪へ渡すと己の席へと再び腰を下ろす。祭が落ち着いた処で、豪が其の箱の蓋を取る。中より取り出したのは、傷み、染みも目立つ古い書簡。其れを丁寧に扱いながら広げ、己を囲む子等の前へと差し出してやった。皆、何だろうかと覗き込む。 「此れは、先程の話を証明する書簡だ。そして、此方は当時に天下御免の札とも言われるもの。此の筆跡は、一刀帝のものなのだ」  続いて箱より取り出されたのも、かなりの年期を感じる古い札。先の書簡と並ぶ其れへ、一匡は口が開いたままであったが。 「え、こんなものが、何故うちに……」  畏れ多く、手にも取れぬ様子。一切は一匡より冷静であれたが、兄が手に取らぬものを取る気になれず。只生来の強い好奇心へ、顔を寄せ文字の羅列を確認する。其れに見えたる学問の書物でしか見た事の無い印へは、流石に驚きがあって。
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