其れは、西の宮廷にて。

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「確か、此の印は帝のみが所持されるものですね。いや、真に何故……」  感銘を受け、呟いた声。息子等の反応へ豪は満足気に笑いながら、其の書状に重なるもう少し新しい書状を一匡へ手渡した。 「此れは、其の署名無き書状が何であるかを示すもの……此方も、一刀帝が筆を取って下さったものだ」  再び、其の書状を覗き込む面々。内容は、古い書状の内容を一刀帝が自ら説明するもの。此れを所持する御先祖が、一刀帝と従兄弟である事を認める事。一刀帝の祖父が御先祖の母を認知なさった事。但し、書状の申請期間を過ぎ、此れに通じる権威を放棄した事。しかし、其の確かな血を認め貴族の地位を与える事も。 「す、凄い……い、一刀帝の、ごっ、御署名と印があるぞ……っ」  書状を持つ一匡の手は震えっぱなし。豪も曾て、此れを父へ伝え聞いた己の姿をも思い出して。 「我等の御先祖は代々東の片田舎、藍(あい)の地の御役所を任されて居る。処がどうも、そういう事情があったと……しかし、認知されても不義の血に違い無いと、御先祖は放棄されたらしいのだ」  後半に語られた訳あった御先祖の出自へ、一匡が複雑そうな面持ちに。 「私には、御先祖の思いが分かる気がします」  其れへ、豪も静かに頷き答える。 「そうだな。代々、此の話を子に告げるが……皆其の流れを理解し、受け止めて居る。何より今は昔、法も改正され、何の効力も無い紙切れと札だ。だが、誇らしかろう。此れを遺された我等の御先祖は、一刀帝の従兄弟で在らせられたのだから」  又も信じられない言葉が。皆が驚き隠せぬ中、一匡がふと一切へ顔を向ける。 「そうか、其れで一切が一刀帝の絵姿に似てるのか。先祖返りってやつかな……都では大変だったのではないか?」  一匡と一切は確かに兄弟で豪と祭の子なのだが、どうも一切のみ雰囲気の違う面立ち。豪も灯も、何処かおっとりした柔らかな雰囲気の容顔。そして、一匡も優しげな目元に爽やかな印象。そんな中、一切は成長するにつれ誰かに似て居る様なと家族のみならず、友人や知り合いが小首を傾げて居たもので。
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