サクラ

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 桜が、嫌いだ。  白い色が嫌いだ。  真ん中のお淑やかな薄紅色が嫌いだ。  綺麗な弧を描く花弁が嫌いだ。  自分が嫌いだ。  病弱そうな色白の肌が嫌いだ。  日焼けするとヒリリと痛む皮膚が嫌いだ。  少し肉の付いた体が嫌いだ。  自分の名前が嫌いだ。  桜という名前が嫌いだ。  花子並みにありきたりな名前が嫌いだ。  単純な名前の割に美しいその花が嫌いだ。  自分には分不相応な名前が嫌いだ。  君が言った。  ──そんなことないよ。いい名前じゃん。似合ってるよ。  気の利いた返事もできない自分が嫌いだ。  胸を張れない自分が嫌いだ。  君を見ると目を逸らしてしまう自分が嫌いだ。  君と話していると赤くなる自分が嫌いだ。  桜のように紅潮する自分が嫌いだ。  分かりやすく甘いこの気持ちが嫌いだ。  春を連れてくる桜が嫌いだ。  甘く香る恋の匂いが嫌いだ。  優しく笑う君が好きだ。
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