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「ひとつだけ、約束してください。いや、違うな。──ルールを決めましょう。」
「ルール……ですか?」
浮気はNGとか?
そんなルールを決めなくても僕は浮気をする気なんか全然ない。
あるいは記念日を大事にして欲しい。とかだろうか?
そんな僕の想像とは全く違うことを彼女は提案、というかお願いしてきた。
「これから先、何があっても黙っていなくなったりしないで?あたしもそうするから──」
やっぱり、残されたほうは辛いから── 僕のほうを真っ直ぐ見てそう言った彼女の笑顔が、とても切なそうに見えた。
ALSで亡くなってしまった鶴野さんの元彼の墓前で、あろう事か僕は彼女を思わず抱きしめてしまっていた。
「分かりました。一生、鶴野さんを大事にします!黙っていなくなったりしません。」
「貴方に会えて……良かった。」
僕の唇が鶴野さんのそれに重なり、彼女の両手が僕の背中に回る。
このまま時が止まって欲しい── 半ば本気でそう願ってしまうほど、その時僕は幸せの只中にいた。
ジー、ジー……
少し気の早いニイニイゼミの鳴き声が、僕たち2人を祝福しているように聴こえた。
END
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