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「まずは住人の皆さんに挨拶しなきゃ、な。」 およそ半日かけて家具や荷物の整理が済み、僕は住人たちの部屋を順番に回ることにした。 「こんにちは!トキワ荘へようこそ!僕は鷹羽たけると言います!」 僕が101号室のドアを叩くと、無駄に元気の良い男性が姿を現した。 ギターケースを背負い、元気よく挨拶したその芸術家志望者は青年……というには少し歳をとり過ぎているように見える。 おそらく30歳過ぎくらいだろうか? 「よろしくお願いします。ギター好きなんですね。アーティスト志望の方ですか?」 僕がそう尋ねると、彼は目を輝かせた。 「音楽もそうですけど、あと小説と絵本と漫画を仕事にしようと思います!」 ひとつに絞らないんだろうか…… 「今はスーパーと塾講師をかけもちしてます。13時間労働ですよ13時間!でも非正規だから低賃金なんです。それでこの間なんか警察に無職扱いされて……」 彼の自己紹介はそれからたっぷり一時間続いた。
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