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お墓には既に先客がいた。
今日買ってきたばかりであろう花をお墓に供え、神妙な顔つきで手を合わせるその女性は、やや明るめの紅茶色の髪を緩くカールしている。
僕の記憶にある鶴野さんのヘアスタイルと同じだ。僕の心臓がアップテンポなビートを刻み始める。
「鶴野……さん?」
彼女を後ろから抱きしめたい衝動と懸命に闘いながら、僕は務めて控えめに背後から声をかけた。
ハッとしたように彼女が振り向く。
もしかして髪型が似ているだけで全くの別人かも知れない──そんな悪い予想は幸いにも外れ、振り返ったその顔は間違いなく鶴野さんだった。
「お久しぶりですです。あの……この度はおめでとうございます。」
「えっ?……鶴野さん、僕の受賞知ってるんですか?」
深々と頭を下げる彼女に、僕のほうがおろおろしてしまう。
「ええ、あの……一応、雷撃文庫の賞はずっとチェックしてたから。」
川蝉さんが本名で投稿してくれてて、助かりました── 少し照れの入った笑みを浮かべ、彼女はトートバッグから僕が買ったのと同じ雷撃文庫の雑誌を取り出した。
密かに応援──してくれてたんだ──
僕の胸に熱いものが込み上げる。
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