33-2

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33-2

 「ここか......家は少し年季が入ってるか?」  埼玉県入間市のとある住宅街。ここが次の…いや、最後の復讐対象がいるところだ。  目の前にある表札には“平塚”と書かれている。  そう、これから最後の復讐を決行するのだ。  これから復讐する奴の、当時の年齢は50半ばだったから、今は70後半ってところか。病気になってなければまだ意識は明瞭であるはずの時期だろうな。  幸いにも標的は元気らしい。少し前に肝臓に腫瘍があったと情報が出たが今は普通らしい。まぁ相手は高齢のジジイだ。うっかり本気出すとすぐに殺してしまうからな。  早速、最後の復讐をはじめよう!  「というわけでお邪魔ー!」  例の如く無遠慮無礼にドアを破壊して堂々と住居侵入。呑気にリビングでくつろいでいた老夫婦の顔が瞬時に凍りついた。  「ははは、二十年も経つとやっぱすげー老けてるなァ。久しぶりだな...クソ叔父、いきなりで悪いが今日がお前の命日、だっ!!」  ――ドゴッ「ぐぎゃ!?」  一方的に挨拶をした後、瞬時に標的...平塚大輔の顔面に拳を入れた。  「あの時...俺を思い切りぶん殴ってくれたよな?まずはあれの仕返しをさせてもらうで」  床に叩きつけられるように殴られて、何が起きたのか分からないでいる様子の平塚を俺はゴミを見る目で見下す。そんな俺に緊張した声で話しかけてくるババアが。  「あなたは......もしかして、友聖(ゆう)君?」  「ああ、その呼び方、小学生の頃以来だなァ、玲子おばさん」  白髪のやや痩せた老婆...平塚玲子に昏い笑みを浮かべた顔で返事をする。このババア(当時はおばさん)と最後に会ったのは小6だったっけ。  「やっぱり...!遺影写真とそっくりだったから......それに最近警察からあなただのことで調査が来たからまさかって思ってたけど......それよりも、どうしてこんな...!?」  ...ちょっと待て、警察が俺を調べてる?ああそうか、俺が残してしまった痕跡で俺のことがバレてたのか。いつかは足がつくと思ってたが、もうその段階にまできてたか...。  まぁ俺にとっては何の不都合もないからどうでもいいが。  「まぁ見ての通り、このクソ叔父には恨みがあって。その復讐に来た所存でしてー」  そう返事しながら平塚を宙に浮かび上げて奴に憎悪の目を向ける。  「ぐ...ぐが.........お前、は......友聖...!?」  「そうだっつってんだろ。まぁ驚くのも無理ないか。俺は実際死んでたわけだし。まぁ色々あって転生してここに帰ってきたんで、俺を虐げて排除しやがったゴミクズどもに復讐して回ってたんだわ。  で、お前もその対象なのでこうして痛めつけられてるわけ。じゃあ早速――」  「な、何だこれは...!?」    いざ楽しい処刑タイムに移ろうとしたその時、リビングに第三者が入ってきた......いや、この家の本当の家主が帰ってきたが正しいか。  「ああ、太樹!大変なことにっ!昔とっくに亡くなったはずのゆう君が生き返って、それでお父さんをいきなり痛めつけて......」  この二人の三男息子である平塚太樹(47)は、自分の母の狼狽混じった説明に困惑しつつも俺と宙で磔になっている平塚を交互に見て顔を険しくさせる。  「君は...何なんだ?冗談にしては度が過ぎているな。馬鹿な真似は止めてすぐにここから出て行け!!」  「そういうわけにはいかないんですよー。このクソ叔父には十分な苦痛を与えてから殺すって決めてるから。それが済んだらすぐに出て行ってやるよ。お前らには特に何もされてはなかったから何の憎悪も無いしな」  太樹がものすごい剣幕で睨んできても嘲笑いながら軽い口調でそう返して、平塚の拘束をさらに強める。まずは手足を潰そう。気圧を操って奴の手足を一瞬で砕いた。  「がぁああああああっ!!」  「お父さんっ!!」  「おい止すんだっ!!父さんがお前に何をしたって言うんだ!?それにお前は誰だ!?」  「ああ?さっきそこの玲子...今はババアか。玲子婆さんが俺のこと呼んでたろうが。“ゆう君”って。お前もお互いガキの頃は俺をそう呼んでたよな?」  「ゆう、君............まさか、友聖君か...!?」    返事の代わりに悪い笑みを浮かべてみせる。  「そんなはずは......君は二十年以上も前に自宅で遺体として発見されて...葬式も挙げて、納骨も済ませて...!」  「へぇ!?ご丁寧に俺の葬式を?どいつもこいつもあれだけ俺を侮蔑して無関心でいて、排除した連中が俺の葬式をぉ!?  はっはっはっはっは!!マジで笑える!何だソレ!?お前ら何がしたいわけ!?勘当して赤の他人にしておいて、その赤の他人をわざわざ弔って供養するって......意味分かんねーんだよボケえええええええええええ!!!」  「あ”、あ”あ”あ”っ!!」  思わず情緒不安定になって加減をミスって、奴の骨を何本か折ってしまった。喀血して苦しげに声を上げる様は愉快だが。  「止めてくれっ!!さっきからどうして父さんをそんな目に...!君にいったい何をしたというんだ!?」  「あー説明すんのもめんどい。ほら、こういう経緯だ」  軽く愚痴りながら太樹の頭に雑に手をおいて俺の記憶を流し込んでざっと状況を理解させる。  「ぐ.........そん、なことが...!君は、学校で虐めを受けて!?知らなかった...」  「まぁ俺らが最後に顔を合わせたのは小6の頃だったからなぁ。あれ以降の俺の人生は“地獄”と言っていいものだった。  お前は良いよなぁ?良き友に恵まれ、学業がイマイチでも横の広いつながりと世渡りが上手さで給料と環境が良い会社に入って、素敵な女と結婚して家庭を築いて...。会社では上からも同期からも下からにも慕われて超リア充している。  ハハハ、なんだその勝ち組人生は!?あの頃の俺の境遇と比較すれば天と地の差そのものじゃねーか!」  「そ、それで......父さんを、殺そうと!?そんなこと、止めるべきだ!確かに父さんにも行き過ぎたところはあったのかもしれない。  勘当なんてことは、“逃げ”と同じことだ...。君のお母さんやお姉さんにも問題はあったのかもしれない。だがそれでも!こんなことは間違いだってことは、君も分かってるはずだ!!辛かったと思う。赦せないんだと思う。でも分かってくれ!君が死んだと知った洋子さんが、どれだけ悲しんでいたかを!!あの人は君のことを何とも思ってないことはなかったってことを...!!」  必死な、マジな形相で俺に説得する太樹を、俺は鼻で嗤った。  「あのクソ母が俺の死を悼み、悲しんでた…だ?何かしらは思っていた…だ?おかしいなァ、じゃああの時勘当に賛成するなんてこと、無いはずだったよなぁ?  大方お前らのお通夜雰囲気に流されて泣いてただけやないのか?あの二人はあの時から俺に対して完全に家族を見る目じゃなかったからな。  当の本人である俺が言うのだから違いねーんだよっ!」  ミシメシ...!「がっ、ぎゃあ...!」  「止めて...ゆう君もう止めて...!」  「そんなはずは、無い...!分かってくれ!もう父さんを解放してくれっ!!」  「太樹君、俺に言ったよな?“こんなことは間違いだ”ってことは...。だよなぁ?理由はどうあれ家族や親族をこんな風に痛めつけるのは人として間違ってるよなァ」  「そうだ、その通りだ!やっぱり君も本当は分かって――「で・も・なァ!!」――え...?」  太樹は思わず俺への説得を中断してしまった。正確には俺が奴の言葉を遮った、か。  「“感情”が赦さねー限りは!俺は止めたりはしねー!!コレが、俺にとって最適手で!俺にとって正しい行いで!俺にとって正義そのものだから!!」  「な......友聖君、何を.........」  間違ってることを間違いだってこと、悪いことを悪いって分かっている。分かっているのにそれでもその手を止めない奴は......そいつは、自分で“自分が正しい”ってことを信じられているから。  自分が今やっていることは、嘘偽り無く自分の為だけの正義だ。  それを完全に認知して容認して信じているから、どんな外道で悪辣非道な行いも平気で為せるんだ!  だから俺は何の躊躇いも無くあいつらを残酷に処刑できた...!  “正義”ってのは人それぞれにある。俺の正義は......  ―――俺を攻撃する人間・排除しようとする人間・不快にさせる人間 それら全てをこの世から消すことだ!!!
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