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「昨日はありがとう。驚いちゃってその時にお礼が言えなくてごめんね。傘、今日持ってきたから。傘立てにさしてある」
僕がいつものように昼休みに本を読んでいると転校生がやってきて、「宇宙人なの」と変な発言をしていた奴とは思えない普通のことを言った。僕は「いえ」と小さい声で返した。
「今日は何を読んでいるの?」
「夏への扉っていうSF小説」
「君はSFが好きなの?」
彼女が聞いてくる。僕は小学生の時に「宇宙戦争」という火星人が地球に侵攻してくるという内容の小説を読んでからSFにハマって、以来SF小説を読みあさっている。小説だけでなく漫画や映画を見ることもある。宇宙へ行ったり超能力が使えるようになったりSFにはいろんな種類のロマンが詰まっていた。SFはいつも僕を今いる現実から遠い世界へ連れて行ってくれる。僕は友達が一人もいないのでそこへ逃避しているのかもしれない。
そんなことは彼女には言わないが僕は「そうだよ」と答えた。彼女は「ふうん」とだけ言って興味があるのかないのかはわからなかった。
そこから気まずい沈黙が流れ出したのに彼女は僕のそばから離れようとしなかった。椅子に座って本を持っている僕の横でただ突っ立っている。一度会話した手前本に視線を戻して読書を再開させることができなかった。また昨日傘を貸すという親切をしたために無視をしたりどこかへ行ってくれと頼むこともできない。仕方なく「地球にはどれくらい前に来たの?」と聞いてみた。
「五年くらい前にきて、そこからは地球人として地球で生活してるよ」
と彼女は答える。やっぱり変わった子なんだなと僕は思う。自分が宇宙人であるという設定を貫き通すつもりらしい。そんなだから他のクラスメイトから相手にされないんだと思いつつも表には出さないようにした。
「なんていう名前の星?」
「ラービダ星っていう名前の星」
「地球からはどれくらい離れてるの?」
「確か三百光年くらいだったと思う。ここへは宇宙船に乗ってワームホールを通ってきたから、地球時間でいう二週間で来れたよ」
「これからはずっと地球に住むの?」
「そうだね。宇宙船はもうエネルギーがないし、地球でずっと暮らしていくと思うよ」
彼女は淡々と僕の質問に答えた。こんなふうに真面目な顔で馬鹿みたいなことを言う人を僕は初めて見た。
彼女の住んでいたラービダ星という星の二つの大きな国がある資源を巡って戦争を始めたらしい。それがみるみる激化していき他の多くの国や人を巻き込みながら、遂には人類の滅亡の危機とまで言われるほどの状況にまで及んだ。そこで彼女は父親、母親とともに宇宙船に乗って地球まで逃げてきた。本当は宇宙船での逃亡は禁止されていて見つかれば処刑されるらしいが、彼女らは運よく逃げて来られたのだという。
「地球まで追いかけては来ないの?」
「それはわからない。でも、もう滅びちゃってるかもしれないしね」
平然と彼女はそう言った。
彼女の住んでいた星は地球よりも遥かに進んだ科学技術を持つという。駅のようなものはあるが電車はない。駅のような場所に輪っかがあってそれに乗っかると別の地点にワープができる。肉や野菜などは食べず特殊な液体をコップ一杯分ほど飲むだけで一か月に必要な栄養が蓄えられる。
地球でいう月のような衛星が三つあってラービダ星の周りをぐるぐる回っており昼夜関係なくそのいずれかの衛星が空に見える。また常に逆立ちで歩くゴリラみたいな動物とか足が六本あって目が三つあるオオカミみたいな動物とか、地球にはいないタイプの生き物がたくさん生息している。
ラービダ星についていろいろ質問してみると彼女はその一つ一つにすらすらと答えた。元々SFが好きだからというのもあるかもしれないが、彼女のラービダ星の話しはなかなか凝られていて面白かった。その星の人の暮らしや科学のことや動物のことをその日はたくさん教えてくれた。ふと、こうやって学校で誰かと長く会話するなんて初めてだなと思う。
「ラービダ星にも学校はあった?」
「学校もあったよ。地球とは違うところもたくさんあるけどね」
「ラービダ星の学校は楽しいところだった?」
「全然。学校での私の生活は、向こうでもこっちでも似たようなもんだよ」
彼女はそう答えた。
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